純・情・愛・人

もう元には戻らない“箱”を前に立ち尽くす。

宗ちゃんの奥さんになるのは、一途に恋してきた人。自分が相応しくなれるよう、努力を惜しまない人。永征会の次期会長を支える覚悟ができている人。

宗ちゃんにも組の将来にも無関心で、妻の体裁だけ取り繕える。そういう人じゃなかった。・・・なかった。

射貫かれた穴にヒューヒューと風が通り抜ける音ばかりが頭に響いてる。

宗ちゃんはわたしに黙って行った。

『俺にはお前だけだ』

ただ信じて、知らん顔ができるのが強さなんだろうか。覚悟なんだろうか。

「イジメすぎたみてぇ?オレとしちゃ手加減したほうか」

「・・・・・・・・・」

「まーだ序の口なんじゃね?園部が思ってるよか、しんどいぞ。あの人の女でいるのはよ」

笑った気配がした。顔を上げずにいたから朝倉君がどんな表情で言ったか分からない。憐れんだのか、嘲ったのか、所詮他人事だったか。

「じゃあオレは行くわ、またなぁ園部」

悪びれもしないで歌うように。長椅子から立ち上がった彼を見送ることさえできなかった。

おごってもらう理由もないのに、会計伝票がテーブルから消えていた。・・・少しだけ惨めな気持ちになった。トートバッグを掴み、逃げるように表へ出た。

自分の車に乗り込んで少しだけ、泣いた。