純・情・愛・人

心の準備をする間もなく耳に届いた廊下の床を踏む、不規則な足音。そして。

「入ります」

低い声がした。広くんのだったか正直、曖昧だった。そんな畏まった口調を聞いたことがなかった。

戸が横滑りし、自然とわたしの目線も吊り上げられる。立っていたのは正装姿の彼。有馬の家を出る前はそれこそ朝倉君みたいな風貌だった。たった二年で一皮剥けたというか、宗ちゃんに近付いてきたというか。

社長業も兼ねている宗ちゃんは、あまり極道(それ)らしい色目のスーツを着ない。グレーの三つ揃いに黒いシャツ、ラベンダー色のネクタイを結んだ広くんは、二歳下なのを忘れそうな空気を纏って見えた。

サイドを刈り上げたツーブロックの黒髪も、横分けの前髪を斜めに流したスタイリングのせいか、少しインテリっぽい雰囲気を(かも)し。ピアスも指輪も消えていた。

両親のどっち似かで言えば、引き締まった輪郭で端正な顔立ちの宗ちゃんはおおよそ父親似。広くんは、高級クラブを何店舗も経営する母親の花蓮(かれん)さんとおじさんの間を取ったような。

子供の頃は愛らしいって表現も大袈裟じゃなかった。今も宗ちゃんとは種類が別の、女性の目を引くタイプには違いないと思う。

「こっちに座れ」

促された広くんは黙礼するとおじさんの横、わたしの斜め向かいに腰を落とす。