純・情・愛・人

『今までありがとう』も『さよなら』も違う気がした。

わたしの前からいなくなるだけで、触れられなくなるだけで、宗ちゃんと呼んだひとがずっと(ここ)にいる。

それは思い出になって傷になって、命尽きるまでわたしを苛む。空を見ては、花を見ては、夜を何千と越えては。

宗ちゃんは答えなかった。何もくれなかった。嘲りの一瞥さえ。

「いい子じゃなくて、・・・ごめんね」

宗ちゃんの薫は、最後の最後で聞き分けのないわがままになった。すべて当然の報いだ。声を震わせ目を伏せた。

「お前が謝るんじゃねぇよ。ほっとけ」

広くんに引き離されるようにして部屋を出た。他にどうしようもなかった。別れるしか。なかった。

エレベーターで下まで降り、目の前に路上駐車してあったミニバンに乗り込む。フロントガラスに切り取られた空はひっそりとただ暗く、後部シートは濃いスモークガラスに囲われていた。張り詰めていた糸がほんの少し緩んだ。こんな有様の二人を誰かが目にしたら、騒ぎになったことだろう。

「やっぱり病院に行ったほうが・・・!」

隣りで窓側にもたれた広くんが辛そうなのを、心配で声をかけた。素っ気なくNOが返った。

「・・・そんなのより、兄貴じゃねぇだろ」

何のことかと、薄目を開けた横顔に釘付けになる。

「俺に言いやがれ・・・バーカ」