純・情・愛・人

『うん』

ひとつ頷けばすべてが丸く収まった。

後継者を心から望むおじさんと宗ちゃんの気持ちが胸に迫った。揺れた。揺らされた。宗ちゃんの笑顔を失うのが怖くなった。おじさんに失望されるのが怖くなった。

膨れ上がる臆病が奥からせり上がって、もう楽になりたいと何かを吐き出しそうになる。チガウ、ダメ。必死に堪えた。

「お前はいいのかよ、薫子」

それまで黙ったままだった広くんの冷えた声が、耳に刺さった。

途端。波が引くように、せり上がった臆病が底へと吸い込まれていく。ゆるゆると彼を振り仰ぎ。目が合ってすげなく逸らされた。

『へたれてんじゃねぇよ』

見えない手がわたしの腕を力強くつかんでる気がした。逃げるなと引き留めてる気がした。折れるなと支えてる気がした。

はっとして大地の寝顔を見つめた。可愛いお嫁さんの隣りではにかむ大人の姿が浮かび、無性に愛しくなって、癖のある柔らかい黒髪を撫でた。

「・・・跡取りにしたかったんじゃないの」

まだ揉みくちゃな頭の中から言葉を選び取って、ひとつひとつ繋げていく。懸命に。

「宗ちゃんとふつうの家族になりたかった。宗ちゃんが宗ちゃんでいられる場所をあげたかった」

小さな額、鼻、唇、頬。指先に触れる確かな温もり。

「庭付きのあのマンションで、子供達と宗ちゃんに『お帰りなさい』を言える未来しか想像してなかった。・・・それがわたしと宗ちゃんの幸せだと思ってた」