純・情・愛・人

「子育てがこんなに大変だなんて思わなかったけど、毎日毎日、大地は成長してくの。まだ言葉はわからなくても一生懸命お喋りして、色んなことを吸収しようとしてる。羽を伸ばすより、宗ちゃんと一緒に大地と遊んだり、教えたりするほうが大事かな・・・って」

「母親のお前がしっかりしているからな、大地のことは何も心配してないが。俺といる時くらいは女に戻ればいい」

願いを込めたわたしに甘く目を細める宗ちゃん。その瞬間。わずかだったズレが大きく傾いて、心の中に隙間を作った。歪んで戻らない気がした。

ソウジャナイノ。

溺れているわけでもないのに息苦しい、酸素が足りない。同じ空気を吸っているのに。

「・・・でもやっぱり大地もパパといたいと思う」

「ああ分かっている」

淡い笑みに乗せた口約束で宥めすかされているのが分かってしまう。悲しいほど。届いていない。宗ちゃんは隙間に気付かない。

「カオルー、大地がなーんかグズってんだけどよー」

「あ、・・・うんっ」

お父さんのSOSを口実に宗ちゃんの前から逃げた。笑えなくなりそうな自分が怖かった。

出かける前、うどんを少し食べさせてきた大地にミルクを飲ませている間にお膳が運ばれ、スーツに着替え直した広くんが宗ちゃんの隣りに腰を下ろした。

「孫達の成長を祝って乾杯しようかい」

おじさんの口上で始まった昼食会。料亭顔負けの見事な松花堂弁当は、もちろん専属の板前さんの料理で。どれも美味しいのに食べた気がしなかった。・・・最後まで。