純・情・愛・人

「今日はわざわざ足運ばせて悪かったなぁ薫。孫見たさに俺が(ダイ)に無理言ったのさ」

石庭を臨めるいつもの奥座敷で、私達を迎えてくれた和服のおじさんと三つ揃い姿の宗ちゃん。おじさんの目尻がやんわり下がる。

床の間には見事な枝ぶりの桃が活けてあって、二年前までわたしの為だったのを懐かしく思い出した。

「薫は俺の大事な娘だ、気兼ねなんざしてくれるなよ?」

「・・・ありがとう、おじさん」

ぎこちない笑みになったのは、一つ屋根の下にいる彼女への後ろめたさ。常識の世界だったら到底あり得ない、招かれざる存在なのだから、わたしは。

「宗吾と顔会わせるのもしばらくぶりかい。大地は見ててやるから、水入らずで好きにしてな」

おじさんが顔色を読んだようにさらっと笑う。琴音さんの“こ”の字も口にしないで。

「薫」

黒檀の座卓の向こうから宗ちゃんがわたしを優しく促した。二人で広縁に移動すると、障子戸を背に宗ちゃんに引き寄せられ、遠慮なしに唇が合わさる。

角度を変えては何度も交わり、宗ちゃんへの愛に偽りはないと応え続けた。宗ちゃんの花でいること、そのために生きたいと心から願ってること、今だってなに一つ変わってなんかいない。

「・・・面倒事も片付いたからな。大地に父親を忘れられない内にそっちに帰る」

「動き回るから目が離せなくて大変かも」

「広己に任せておけばいい」

「でも・・・広くんはベビーシッターじゃないし」

宗ちゃんが言ったとき。そこまで重なり合っていた何かが、ほんのわずか浮いてずれた気がした。