彼女への罪悪感を仕舞いこんで、わたしの為の時間を惜しまずにいてくれる宗ちゃんに甘え。お父さんと広くんにどれだけ助けてもらい、年が明けた十五日、体重3000グラムにちょっと欠けた男の子を無事出産した。

子供の名前は大地(だいち)。園部大地。お父さんの『大』をもらって。

宗ちゃんの名前から一文字もらうかは正直すごく迷ったけど。大地の人生は大地のものであるように。大らかで豊かで、灼熱の暑さにも厳しい寒さにも負けずに、実りある人生を送れるように。

願いを込めた名前を宗ちゃんも愛しむように呼んでくれた。おっかなびっくり、生まれたての大地を抱っこしながら。

そして四ヵ月後。琴音さんが赤ちゃんを産んだことを広くんに教えられた。大地が一生会うことのない異母きょうだいは、女の子だと聞いた。一喜おじさんがひどく残念がった、と。

『薫』

大地の一歳の誕生日の夜だった。ようやく寝かしつけ、ベッドで隈なく愛された余韻に浸っていた。腕の中に閉じ込められたまま、髪に宗ちゃんの温かな吐息が埋まった。

『・・・大地を俺の跡継ぎにする』





ひび割れた音がした。
みしみしと軋んだ音がした。

信じて咲き続けた心の花が折られた。
静かに、躊躇なく、
全てを捧げると決めた人の、その手で。