愛は手から零れ落ちる


その日、閉店まで私はこの店にいた。

この店のお客さんは静かだった。騒ぐような人はいない。
大人の店だったので安心した。

閉店後、マスターはロッカーに案内してくれた。
制服が2着あったが男物だったので、私には無理だった。

「朋美ちゃん、黒いパンツと白いシャツ何か持ってる?」

「はい。持っています。」

「ならそれでお願い。エプロンはあるから。」

良かった、買わなくて済んだ。

それと、もう一人の従業員はバーテンダーの櫻井君。無口なメガネの男性・・・
26歳だという。
ずっと語らずカウンターの中でカクテルやその他のお酒を作っていた人だ。
私は挨拶をした。

「嶋村 朋美です。明日からお世話になりますので、よろしくお願いします。」

「櫻井です。」

それだけ言ってペコッと頭を下げた。素っ気ない人だった。


次の日、17:00に私はお店に着いた。
ロッカー室で着替えを済ませて、マスターと仕事内容を打ち合わせした。

「お店の開店は18:00からなので、その前に17:30からは店内の掃除。開店してからは、つまみとかの準備と洗い物。閉店は23:30だけど、朋美ちゃんは22:30で上がっていいよ。」

「マスター、私閉店までいてもいいですけど・・・」

「ホント、助かる~最後の片づけあるから店出るのは24:00になるけどいい? 」

「家近いから大丈夫です。ここから5分くらいだから。」

家の場所を説明した。

「僕の家に帰る途中だから、毎日送るよ。」

「大丈夫ですよ。」

「だめだよ、若い女の子をそんな時間に一人で歩かせるわけにはいかない。だから送っていくよ。それが条件。どう? いい? 」

「わかりました。お願いします。」

マスターはもう50代位。とくに心配することないよね。