愛は手から零れ落ちる


私は履きなれないヒールの靴と、涙でぼやけた視界でつまずいた。
櫻井君は私を支えてくれた。

「おい、大丈夫か? そんなに酔ったか? 」

私の大きな目は真っ赤だった。
櫻井君はそんな私の顔を見て勢いよく引き寄せキスをした。
そしておもいっきり抱きしめた。

「ごめん。俺、嘘ついてた。俺、ゲイなんかじゃないよ。昔から女にモテて、めんどくさかったからそんな時はゲイって言って逃げてた。男から寄ってこられてそれもめんどくさかったけど、女よりはかわせたから、ずっとそうしてた。あんたのこと好きになりそうで、俺は年下だし、あんな事故の後だし好きになっちゃいけない気がして・・・おもわずゲイって言ってしまった。言った後もずっと後悔してた。悩んでた。あんたのこと放っておけなくて、危なっかしくって、心配で・・・ずっと見ていた・・・好きだ! 朋美。」

櫻井君は、また私を抱きしめてキスをした。
私はキスをされながら泣いていた。

「酷いよ~、私・・・ずっと櫻井君のこと気になっていて、いつもいいアドバイスくれるし、私のことどう想っているのかなって・・・でもゲイだからあきらめなくちゃいけないって、でもまた優しくしてくれるからまた好きになって、何回も何回も・・・あきらめて・・・辛らくて・・・」

私は泣き続けた。

「ごめん、ほんとごめん。許して、泣き止んで朋美・・・」

「もう嘘つかない?」

「うん。」

「あのさ、櫻井君・・・お願いがあるの。」

「何?」

「もう一度抱きしめて欲しい。」

「いくらでも・・・」

櫻井君はずっと抱きしめてくれた。

私はこのような安らぎは初めてだった。ずっとこうしていて欲しい・・・


櫻井君は私の耳元でささやいた。

「今日はどっちの部屋に戻る? 」

「いじわる・・・」

櫻井君はまた私を抱き寄せキスをした。

「ねー、部屋ひとつで良かったんじゃねー。」

「喧嘩したとき用かな? 」

「喧嘩するの? 」

「知らない! 」

櫻井君は私の手を握り、歩き始めた。


「あのさー、もうひとつ・・・言っとく・・・あのマンションうちのなの。」

「えー。大家さんてこと? なにそれ? 」

「そう。もうひとつ・・・」

「何? 今度は何? 」

「俺ね、もうすぐ社長になる。ジイちゃんの後次いで不動産屋の・・・一応宅建持ってる。」

「えーなんなのそれ・・・すごい・・・」

「俺の父親は不動産屋がイャだったみたいで他の仕事に着いた。俺はジイちゃん子で小さい時学校から帰るとずっとジイちゃんの不動産屋にいたんだ。だからその時ジイちゃんの跡を継ぐって決めたんだ。先日ジイちゃんからそろそろお前にこの不動産屋やるって言われてね。」

「そうだったんだ・・・ねえ、もう隠してることない? 」

「たぶんない。」

櫻井君は握っている手に力を込めた。

「不動産屋の社長になったらバーどうするの? 」

「続けるよ。だって朋美もやるでしょ・・・」

「もちろん!!」

「当分は二人とも2足の草鞋だね。でもさ、マスターがこのこと知ったらなんていうかな?」

「喜んでくれるといいけど・・・」

「マスター表向きは喜んでくれるだろうけど、本心は悲しむかもな。朋美のこと大好きだから。」

「マスターいい人だよね。そういう意味で好き。」

「朋美、これからは今まで以上にいろいろ気を付けてね。」

「ふふふ。」

「おい、わかってる?」

「へへへ、でもずっと見張ってるでしょ。」

「そりゃそうさ。なー、やっぱりさ・・・部屋はひとつがいいなー。引っ越そうか? 」

「私、今日引っ越したばかりなんですけど・・・」

「いいじゃん。」

二人は櫻井の部屋へと消えた。

                               End