愛は手から零れ落ちる


私はまず友田さんの事務所に行ってみることにした。

友田さんに電話を入れて事務所に行った。
家からは歩いて15分くらいのところで、バーを通り過ぎていく方向だった。

「嶋村さん、良く来てくれました。ここの事務所はね、父が始めました。僕は2代目。そして、あそこに座っているのが3代目の忍です。会計士が4名、事務が1名、そして僕と息子の7名です。会計士のお一人がもう高齢でね、そろそろ引退したいと言われていまして、なかなか良い方が見つからず、ズルズルと勤めていただいていたのですが、さすがにもうと、来月末で退職されるのです。だから、嶋村さんどうかな? 来てもらえないですか? 」

「本当にありがたいお話です。でも今はあのバーを辞めることは出来ません。私がどん底の時に救ってくださったのがマスターなので。それにあの店のおかげで私も変わることが出来たのです。」

私は友田さんに事故のことを話した。
友田さんはあまりのことに絶句した。

「毎日とは言わない。バーの仕事と両立できるように時間調整したらどうだろう。今はバーの仕事もいいが、将来的には会計士の仕事はいい、経験があればどこの土地に行っても仕事が出来る。年齢もある程度までは出来る。私は勧めるよ。」

友田さんも櫻井君と同じことを言った。考えてみよう。マスターとも相談しよう。
私は友田さんにもう少し考える時間をくださいとお願いして事務所を出た。


気持ちは固まった。
挑戦してみよう、何でもやらないともったいない。もし、ダメなら元に戻ればいいだけ。

2案考えてみた。

【1案】
月・火・木は会計事務所。
水・金・土はバー。
お客様の多い曜日にバーに入いるパターン。

【2案】
会計事務所 月~金 10:00~16:00 1時間休憩、実質労働時間5時間(4時間+残業1時間計算)
バー 月~土 18:30~23:30 労働時間5時間(4時間+残業1時間計算)
めいっぱい仕事をするパターン。

この2案で、マスターと友田さんに相談をした。
二人とも、2案目がありがたいが、出来るのか? と言う答えだった。
私は、先ずはやらせてくれと頼んだ。
無理だったらその時にまた相談するからといって押し切った。

5月からのスタートになった。


うっかりしていた。
アパートの更新を忘れていたのだ。6月末が期限なので4月末までには更新するか退去するか決めなくてはいけなかった。
あと1週間もない・・・
更新には家賃1ヶ月分の更新料も必要となる。


どうしよう・・・


マスターにアパートの更新について開店前に相談をした。

「アパートの更新時なのですが、今のアパート少しガタ来てるしその割には高いと思うんですよ・・・更新料も1ヶ月払わないといけないし。私忘れていて期限まであと1週間しかないのです。」

「大家さんに家賃下げてもらったら? 」

「そんなことできるんですが? 」

「少しなら聞いてくれる場合があるよ。言うだけ言ってみたら? 」

「そうですね。早速明日お話してみます。」


「ねー、今のアパート幾ら? 」

櫻井君が横から聞いてきた。

「2DKで9万。」

「何畳? 」

「6畳と4畳半。バストイレは一緒。」

「俺が今いるアパート、メゾネットで8,5万、バストイレ別、広さもそれより広い。俺の隣の部屋空いているよ、聞いてやろうか? それに敷金・礼金・更新料無いよ。」

「ほんと? 聞いて欲しい。」

私は櫻井君の隣と言うのが気になったが、ゲイだしかまわないと思った。


マスターは黙ってその話を聞いていた。