愛は手から零れ落ちる


マスターはいつも通り、朋美を家まで送ってくれた。
櫻井君のことは話さなかった。


部屋に入り部屋の電気と暖房を付け、コートを脱いでベッドに座った。

ドキドキしながら紙に書かれた櫻井君の携帯番号に電話をした。
櫻井君は1コールで電話に出た。

「櫻井君、何なの? 」

「出てこられる? あんたの家のすぐそばの公園にいる。」

「えっ? 電話じゃダメなの? 」

「ちゃんと話した方が良いから。」

「何かわからないけど、行きます。5分待ってて。」

さらにドキドキした。


なんなのよ~櫻井君・・・


コートをもう一度着て、部屋の電気は付けっぱなしで出かけた。


櫻井君は公園の入口で、私が来るであろう道を見ながら待っていてくれた。

「お待たせしました。」

「あっちのベンチに行こう。」

櫻井君は先に歩いた。
櫻井君は暖かい缶コーヒーを私に差し出した。先に買って待っていてくれたのだ。
私と櫻井君はベンチに座った。

「ありがとう。それで・・・話ってなんなの? 」

「あんた、西崎と付き合ってんの? 」

「・・・付き合って・・・は・・・いない。デートは何回かしたけど。」

「で、どうすんの? 」

「なんで、櫻井君にそんなこと言われなきゃいけないの? 」

「俺さ、見ちゃったんだよ。西崎と牧村。あの二人出来てる。」

「出来てるって、男同士・・・えっゲイってこと? 」

「多分な。牧村はゲイ。西崎はバイってとこだな多分。さっきもカウンターの端に二人が座っていただろ。牧村が西崎に耳元で何か言って誘いをかけて西崎の手を握ったのを見てしまったんだ。西崎もまんざらでない顔をしていた。今日は早く帰っていったろ、どこかでしけこんでるのさ。あんたそんな相手でいいのかよ。」

「・・・西崎さん、そんなそぶり無いよ。」

「あんた抱かれたのかよ。」

「そ、そんなこと・・・してない。」

「だったらさ、今のうちにやめとけ。泣き見るぞ。イャだろ。」

「・・・」

「俺もゲイなんだ。だからわかる。俺にも惚れるなよ、わかった? 」

「・・・」

「帰るぞ! 」

櫻井君は黙ったまま私をアパートまで送ってくれた。


私は櫻井君の言うことを信じられなかった。
でも、今まで櫻井君はいつも私にアドバイスをくれる。いつも正しいことを・・・

悩んだ末、櫻井君の言葉を信じることにした。


西崎さんがバイ・・・
牧村さんも櫻井君もゲイ?・・・
やっぱり私この世界についていけないかも・・・