愛は手から零れ落ちる


取り立てたこともなく、日々が流れていた。

秋風が少し冷たくなってきたころ、新しいお客さんが来た。
常連の牧村さんが連れて来た西崎さんだ。
二人ともスタイルが良く、素敵な人達だった。
牧村さんはクールな男前。西崎さんの話を聞きながらグラスを傾けているのが絵になるタイプ。
西崎さんは牧村さんを和ませる会話をしている明るいスポーツマンタイプ。
二人は目立っていた。

「マスター、こいつ西崎。俺の学生時代からの友人。大阪に転勤してやっと5年ぶりに戻ってきた。ちょっとにぎやかなやつだから、うるさかたら遠慮なく追い出していいから。」

「酷いなー牧村さん。子供じゃありませんよ、もう騒ぎません。おとなしく飲みますよ。」

「フフ、西崎さん、よろしくね。」

マスターは楽しげに二人と会話をした。


牧村さんと西崎さんは良く金曜日に二人で来たが、たまに、違う曜日にそれぞれが一人で来るときもあった。

ある日、西崎さんが一人で来てカウンターに座った。

「マスター、あの子はフリー? 」

「朋美ちゃん? 」

「朋美ちゃんって言うんだ。そう。」

「僕の秘蔵っ子だよ。」

「ふーん。デート誘っていいかな? 」

「泣かすようなことしたら許さないよ。あとは本人に聞いて。」


私がオードブルを西崎さんのところに持って行ったとき、西崎さんはメモを私に握らせ、耳元で囁いた。

「後で見て。」

私はいきなりのことで驚いたが、何事もなかったかのように洗い場に戻った。
そして、皆から見えない場所でこっそりとメモを見た。

—朋美さん
—今度デートしませんか?
—日曜日の11時に〇〇駅の改札で待っています。30分待ってこなかったら諦めて帰ります。
—西崎 純一
—携帯 080-××××-××××
私は驚いて、あわててメモをポケットにしまった。


店が終わり、いつものようにマスターに家まで送ってもらう道すがらこの話をした。

「西崎君ね。さっき朋美ちゃんはフリーかって僕に聞いてきたよ。」

「そうですか・・・マスター、どうしよう? どうしたらいいですか? 」

「朋美ちゃんはどうなの西崎君? 」

「なんとなく気になる人ではあるんです。だから毎回来た時に見てしまって、何度か目が合っています。」

「それなら、一度デートしてみればいいじゃない。友達からってことで。」

「そうですね。私こういうの初めてだから・・・」

「そろそろ少し前を向いてもいいんじゃない。頑張って。」

「はい。」