愛は手から零れ落ちる


マスターにこれを見てもらって、ピナコラーダを飲ませてもらおう。そして終わりにしよう。

そう思いながらも、涙腺が壊れたかのように涙が出続けた。


出勤の時間になり、赤い目を必死に化粧で隠して店に行った。
でも、マスターも櫻井君も直ぐに泣き顔に気が付いた。

「朋美ちゃん、どうした? 大丈夫? 」

マスターは驚いて私に声を掛けてくれた。

「マスターごめんなさい。後で話聞いてください。ちょっとひどい顔なので今日は裏方でお願いします。でも、元気なので心配しないでください。」

「おー。おお、わかった。後でな。」

櫻井君はグラスを拭きながらそれを聞いていた。


その日はお客の引くのが速かった。
マスターは23時に店を閉めた。

「朋美ちゃん何か飲む? おごるよ。」

「私はピナコラーダをお願いします。」

「櫻井、作ってやって。」

櫻井君はピナコラーダを作って、カウンターにいる私の前に差し出した。

その場を去ろうとしていた櫻井君に、マスターは言った。

「櫻井、俺はベルモントだ。おまえも何か飲め。気になるだろ一緒に聞いたら? 朋美ちゃんいいよね。」

「はい。櫻井君にも聞いていただきたいです。少しこのまま待っていてもらえますか。 」

封筒を取りにロッカーに行った。

「写真です。事故の日に撮った・・・この数時間後、彼は亡くなりました。」

マスターは封筒を開け、台紙に貼られた写真をひとつずつ見て、見た写真を櫻井君に渡した。

4冊の台紙に張られた写真を見終わったときには、マスターの目には既に涙が光っていた。

その後、小さい袋からスナップ写真を出して見てくれた。

マスターは口を押えて泣いた。

櫻井君もスナップ写真を見て唇を震わせ、必死で涙をこらえていた。

「マスター、これが彼のお父様からの手紙です。」

マスターは手紙を持っている手が震え、涙が頬を流れ落ちていた。

「・・・朋美ちゃん。これから幸せにならないとね。」

マスターはそれを言うのがやっとだった。

「櫻井、お前何飲んでるの? 」

泣いているのをごまかすかのようにマスターは櫻井君に聞いた。

「カミカゼですよ。カミカゼでしょ、こんな時は・・・」

櫻井君は必死に涙をこらえた声で少し怒ったように言った。

「いいとこあるじゃんお前・・・朋美ちゃん。もし泣きたかったら僕の胸かすよ。」

マスターは優しく言った。

「今日の昼間、涙出し切りましたから、大丈夫です。この写真と手紙は、袋に入れてしまいます。『淡い想い出』にします。」

私は二人に宣言をした。


その日、マスターは私の家の前までずっと私の肩を叩いて励ましながら送ってくれた。
何も語らずに・・・


次の日マスターが教えてくれた。
カミカゼのカクテル言葉は『勇気づけ』、ベルモントは『やさしい慰め』ということを。

私は、“二人ともありがとう” と、心の中で言った。