愛は手から零れ落ちる


ある日、団体さんの予約が入った。
貸し切りだという。この店はカウンター席8名、椅子席20席。普段は貸し切りを受けないけど、今回は常連さんが転勤に伴う送別会だというので受けた。
今日のお客さんは15名。19:00~21:00の予約だった。

でもマスターは今日1日貸し切りにすると決めた。


「朋美ちゃん。今日はいつもとは少し違う。食べ物も多いし、いろいろ出し入れがある。申し訳ないけど、お運びも手伝ってくれるかな。」

「わかりました。」

「なんかあったら言ってよ。イャなことはさせないから。」

「ありがとうございます。」

 
団体さんは賑やかだった。
いつもの店とは違った。華やかな女性もいてきらびやかだった。

オードブルに、少しお腹に溜まるような食べ物、フルーツなどを大きな銀の皿で提供した。
飲み物もシャンパン、ワイン、ウイスキー、ウーロン茶など結構出した。
氷を追加したり、グラスを取り替えたり、やはりいつもとは違った。


なんだかんだで22:00までお客さんはいた。でも満足されて帰っていった。

closeの札をマスターがドアに掛けた。
3人は大きなため息をついた。

「お疲れさん。今日は片付けも適当にして終わろう。それでこの後軽く朋美ちゃんの歓迎会をやりたいと思う。すぐそこの焼き鳥屋。」

「焼き鳥屋? 」

櫻井君が驚いた声で言った。マスターは笑っていた。

「朋美ちゃん焼き鳥きらい? 」

「いえ。好きです。焼き鳥屋に行ったことないので行きたいです。」

「行ったことないんだ・・・」

櫻井君はまた驚いた声を出した。

「はい。基本お酒を提供する店に行ったことが無いです。」

「良くこの店に来たね。」

あきれ顔で櫻井君は言い放った。

「偶然です・・・」


3人は焼き鳥屋に行った。
私は焼き鳥や、つまみを大いに気に行った。
櫻井君も初めは渋い顔だったが、徐々に話すようになりいつもよりは明るかった。
結構飲み食いをして楽しい時間が過ぎた。

24:00に解散した。
櫻井君は違う方向なので一人帰っていった。マスターはいつものように私を家まで送ってくれた。

「今日はありがとうございました。御馳走様でした。本当に美味しかったし、楽しかったです。」

「良かった。朋美ちゃんが来てくれて助かっているよ。これからもよろしくね。」

「はい。」

「じゃ、おやすみ。」

「おやすみなさい。」

いつものとおりだった。


私は、ハローワークでの仕事探しを止めた。
既に1日4時間以上の仕事をしていたし、日中つまらない事務仕事をする気にもならなかった。
特にマスターにはそのことを言わなかった。