「若、失礼します。お連れ致しました。」



コンコン、とノックの音と共に聞こえてくる声。

事務所で書類を整理しつつ十葵が戻ってくるのを待っていたところだった。



「……入れ。」



失礼します、と。
十葵とさっきの女が入ってきた。


さっきの月明かりよりも、明るい蛍光灯の下で見る方が何倍も綺麗な女だ。
やっぱり、風俗やキャバクラで見るギラついた女とは違う。



「こちら、彩瀬 芽来さん。
ハンカチを拾って下さった方です。」


「あ、えっと…。交番に届ける途中でしたので…。
全然気にしないでください。」


「…そうか。助かった、あれは大切なものだったんだ。」


「いえ、無事に届けられたならよかったので…。」



ここに来るまでに何人かの組員に会ったのだろう。
少し怯えているのが手に取るように分かる。
早く帰りたそうにしているが…。
俺は、一度見つけた唯一無二をそう簡単に手離したりはしない。