最近、俺の彼女がとてつもなく可愛い。

この前、葵の家に呼ばれたかと思ったら、葵の部屋に入ってからすぐ、「颯太」って甘えた声で呼ばれて、後ろから抱きつかれた。

学校ではあんなツンケンした態度で、1メートル以内に近づくな、なんて言っておいて、2人きりになった途端にこれだ。
俺の理性が焼き切れるかと思った。
まぁ、焼かれはしなかったけどしっかり炙られたから、たっぷりとキスの仕返しはした。

なんというか、ギャップが堪らない。
葵のこんなに甘えた姿も、声も、俺しか知らないのだ。これを知っているかもしれないあのクソ野郎はぶっ殺したい気持ちで山々だけど、ある意味で感謝もしているから、心の中にとどめておいている。
でも多分、こんなの見たら絶対に葵を手放すような事はないだろうし、知らないだろうと思っているけど。

高校にあがってから、俺はこの顔と性格でまぁいろんな女子に惚れられた。だから女友達なんてまずできない。だって、ひと言話すだけで、彼氏がいるにも関わらず惚れられてしまうのだから。
それなのに、1人だけ違う奴がいた。

最初は、本当に何気なかった。
ただ、授業を聞いている時の姿勢が綺麗だな、とかそんな感じだった。ある時、先生に頼まれたのかクラス全員分の課題を運んでいるのを見かけた。いつもなら、惚れられるかもしれないと避けるのに、歩き方があまりにも綺麗で思わず声をかけてしまったのだ。

すると、意外にも「大丈夫です。1人で運べるので。」と断られた。
少しの感情も乗っていない、無機質な声だ。
完全に気になり始めたのはこの時だった。
俺は、気づけば葵に声をかけるようになっていた。勿論、葵が変な事をされないように、1人でいる時だけだ。

俺が自ら声をかけるのが自分だけだと知らない彼女は、「からかわないで。」と俺の言葉を一蹴する。でも、俺は知っている。そう言った後、必ず彼女は言いすぎたかもしれないと心配するような目で俺を見るのだ。
それがとてつもなく可愛くて、そんな彼女に彼氏がいると知った時は、本当に死ぬかと思った。
中学で出会っていればと自分を恨んだ。

可愛い子に告白されれば俺は付き合った。キスだって望まれればしたし、それ以上の事もした。
それでも、どこかに葵がずっといて、俺の心は満たされず、付き合ってすぐに振るのが増えていた。


そんな時、俺はあいつがわざわざ葵を呼び出しているのを聞いた。最近、あいつは葵じゃない違う子と一緒にいる。
もしかしたら……
そう思って、待っていたら、案の定、葵はとてつもなく暗い顔をして校門を出てきた。
俺がいることすら気づかずに歩いていく。
相変わらず、歩き方が綺麗だな。そう思ってついていっていると、ふと降り出す雪。

葵は足を止めて空を見上げ、また歩き出す。
耐えきれなくなった俺が葵に声をかければ、あいつのせいで葵が泣き出した。他の男に泣かされたという気持ちと、俺の前で泣いたと気持ちが混ざり合ってごちゃ混ぜになって、涙が止まるようにと葵の唇を奪った。
その後も無自覚に誘惑された俺はもう一度柔らかいそこに重ねる。今度はしっかり味わうように。


ここからは俺のターンだ。そう思って責めに責めまくれば、葵はだんだんと可愛い反応を見せてくれるようになって浮かれた。でも、まだだと自分を律して、いつもの俺を演じた。
ある日、俺はあいつに呼び出された。
「葵はああいうのは嫌いだ。だからやめろ。」とか、「俺といた時の方が楽しそうだった。」とか。
つまりは負け惜しみだ。あいつも、葵の俺に対する態度が変わっていることに気づいたんだろう。あの可愛い態度に。

今さらおせーんだよ。
心の中で呟いて、にっこり笑顔をつくる。

「俺、本気だから。葵は渡さねーし、指一本すら触らせねーから。」

目で威嚇すれば、ひぇっと言いそうな顔をしてあいつは帰って行った。ざまぁ。

そんな事があった放課後、校門で待っていた俺に、葵のほうから告白された。涙を必死に堪えていたから何を言ったのか忘れた。
ただ、葵が今まで見た中で1番の笑顔を見せてくれたことははっきりと覚えている。

そこからは、まぁ。
爆発しそうに、というかほぼ爆発して俺の家に連れて帰った時は本当にやばかった。
絶対に駄目だとかろうじて残る理性でキスで終わらせて、家まで送った。
手を繋げば、少し驚いた後に嬉しそうに微笑んだ葵を見て、やっぱり家に連れ帰ろうかとも考えた。

そんなこんなで、今や「颯太」と俺を可愛く呼ぶ俺の彼女だが、俺にぐちゃぐちゃにされたくないのならもう少し自重をしてほしいと思う。

そう葵に言ったら、
「いいよ、颯太になら、ぐちゃぐちゃにされても。」
と言われたので、今現在、俺は必死に頭を抱えている。