「_____……」
潤くんの瞳は黒々と艶めく。
ふたり瞬きもせずに見つめあい、一瞬の体感速度は限りなく遅くなる。
ふたりの間で、何かが動く気配がした。
「嘘だよ」
哀しげに潤む瞳は私を見つめ続ける。
「雨なんて大嫌いだ」
苦しげに声をこぼしていく。
「そうだよね。こないだは、雨が憂うつだって言ってたし」
私はきぜんとして微笑むのだ。
「違う。……そうじゃ、ないんだ」
彼の、小さくて大きな嘘に、なんの意味があったのかなんて私にはわかり得ないこと。
「なんで……あんたは」
ただ、今にも涙が溢れ出しそうなほど歪めた顔を見ていると、
綺麗な肌が強ばるのを眺めていると、
無性に腕を伸ばして抱き締めたくなるんだ。
「俺はさあ、」
再び小宇宙に身を隠した彼の声はどこか無防備で、聞くと何だか安心する。
「前から知ってたよ、西野さんのこと」
というか、よそよそしさが抜けた。
「え。そうなの」
喋ったことも、目があったこともなかったのに。
「うん。でも思ってたより図々しいね」
「それ、ひどくない?」
「どうだか」
今この瞬間、自然に会話できることが、突き上がるほど嬉しかった。
浮かれていた。
「私も潤くんのこと知ってたよ」
「だろうな。名前も教えてないのに呼んでるし」
「名前きいたのは先週だよ」
「え?」
え?
なんの“え?”
「……人づてに俺のこと聞いて知ってたとかじゃないわけ?」
「違うよ。噂もなくて私と接点もないのにわざわざ聞かされたりしなくない?」
潤くんはちょっと目を伏せた。「……それも、そうだな」
「うん。どしたの」
「西野さん、友だち遅いね」
間髪入れない華麗なスルーを決めてきた。
もう会話終了の合図かもしれない。
「それね、嘘」
「は」
「じゃあまたね、潤くん」
嘘ひとつずつで、おあいこだよ。
雨もやんできた。
潤くんの態度はいろいろ意味深だけど、ひとまず気にしない方向でいこう。
潤くんの瞳は黒々と艶めく。
ふたり瞬きもせずに見つめあい、一瞬の体感速度は限りなく遅くなる。
ふたりの間で、何かが動く気配がした。
「嘘だよ」
哀しげに潤む瞳は私を見つめ続ける。
「雨なんて大嫌いだ」
苦しげに声をこぼしていく。
「そうだよね。こないだは、雨が憂うつだって言ってたし」
私はきぜんとして微笑むのだ。
「違う。……そうじゃ、ないんだ」
彼の、小さくて大きな嘘に、なんの意味があったのかなんて私にはわかり得ないこと。
「なんで……あんたは」
ただ、今にも涙が溢れ出しそうなほど歪めた顔を見ていると、
綺麗な肌が強ばるのを眺めていると、
無性に腕を伸ばして抱き締めたくなるんだ。
「俺はさあ、」
再び小宇宙に身を隠した彼の声はどこか無防備で、聞くと何だか安心する。
「前から知ってたよ、西野さんのこと」
というか、よそよそしさが抜けた。
「え。そうなの」
喋ったことも、目があったこともなかったのに。
「うん。でも思ってたより図々しいね」
「それ、ひどくない?」
「どうだか」
今この瞬間、自然に会話できることが、突き上がるほど嬉しかった。
浮かれていた。
「私も潤くんのこと知ってたよ」
「だろうな。名前も教えてないのに呼んでるし」
「名前きいたのは先週だよ」
「え?」
え?
なんの“え?”
「……人づてに俺のこと聞いて知ってたとかじゃないわけ?」
「違うよ。噂もなくて私と接点もないのにわざわざ聞かされたりしなくない?」
潤くんはちょっと目を伏せた。「……それも、そうだな」
「うん。どしたの」
「西野さん、友だち遅いね」
間髪入れない華麗なスルーを決めてきた。
もう会話終了の合図かもしれない。
「それね、嘘」
「は」
「じゃあまたね、潤くん」
嘘ひとつずつで、おあいこだよ。
雨もやんできた。
潤くんの態度はいろいろ意味深だけど、ひとまず気にしない方向でいこう。


