「あんまりプレッシャーをかけるなよ。俺たちは俺たちのペースで、自然に任せるから」

斗真さんが苦言を呈し、義母はハッと口元に手を当てる。

「ごめんなさいね、瑞穂さん。こんなこと言ったらよくないわよね」

「いえ……」

義母があまりに済まなさそうな顔をしたから、慌てて首を横に振った。

コーヒーを一口飲んだ義父が真顔でこちらを見る。

「でも跡継ぎは必要だからな。それは覚えておいてほしい」

「父さん、瑞穂の負担になる言い方はしないでくれ」

斗真さんが即座に割って入ってくれたものの、義父の珍しく厳しい口ぶりにショックを受けた私は思わず俯いた。

「跡継ぎねえ。男が生まれたからって、兄貴みたいに素直に跡つごうとするかはわかんないじゃん?」

いつからか話を聞いていたらしい幸斗さんが、部屋に入ってきて壁に寄りかかる。

「俺みたいな例もあるしね」

幸斗さんがいたずらに舌を出すと、義父は深刻げにため息をついた。

「うちは代々世襲で成り立ってるんだから、瑞穂さんにはどうしても男の子を産んでもらわないと困るんだ。お前は子どもを作らないしな」

「世襲じゃなきゃ会社は潰れるのか?そんなわけないだろ。父さんの考え方は時代錯誤なんだよ」

幸斗さんが鼻で笑うと、義父は眉根を寄せてあからさまに不機嫌な顔をする。

だけど幸斗さんは、それを気にする様子もなく私に目配せをした。

私を気遣ってくれたんだろうか。

「まあまあ、喧嘩はやめて。せっかく瑞穂さんが来てくれてるんだから」

義母が宥めてくれたことで、殺伐としかけていた空気はなんとかおさまった。

幸斗さんは実家近くのマンションで暮らしているそうで、実家の一室に設置されているホームシアターを観るためによく帰ってきているのだという。

斗真さんの部屋にある大量の洋書も勝手に拝借してマンションへ持っていくのだと言って、斗真さんを呆れさせた。

コーヒーをいただきながらそんな他愛のない会話をし、その後は子どもの話に触れることはなく、和やかに本宮家をあとにした。