瑞穂には、マスターにきちんと話してあの男を出入り禁止にするようにと念を押してある。

だがもし警察沙汰ということになれば奴は仕事を失うかもしれないし、家族もつらい思いをするだろうから、警察には相談しないと瑞穂は言った。

彼女がそう言っている以上、俺も無理強いはできない。

だが、また奴が瑞穂に接触しようとする可能性はじゅうぶんにある。


「……春海、俺が帰れないなら、瑞穂にボディーガードをつけてくれないか」

「ボディガード?」

「朝と夕方、瑞穂をマンションから仕事先まで送迎してほしいんだ」

春海は少しぽかんとして、それからケラケラと笑い始めた。

「ベタ惚れね、瑞穂さんに。天下の副社長が恋煩いで仕事を早退したいなんて、バカみたい」

敬語だった春海がくだけた言い方に変わり、罰が悪くて俺は口を噤む。

「でも瑞穂さんはきっと送迎を嫌がると思うわよ?」

「そうだな」

確かに、そんなことをすれば瑞穂は逆に不安を増すかもしれないし、彼女の行動を制限するようなことは避けたい。

「腕自慢の知人なら何人かいるから、遠くから見張らせる?いざとなれば瑞穂さんを守れると思う」

「若い男じゃないほうがいいんだが」

「多少妥協してよ。全く、過保護で気持ち悪い男ね、あなたって」

言っていることは最もだが、副社長となった俺に臆せずこんなことを言ってくるのは、血縁以外ではこいつくらいだろう。