「春海、しばらく五時前には仕事を終えたいんだが」

「何言ってるんですか。無理に決まってるでしょう。昨夜早く帰宅されたから仕事は山ほど溜まってるんです」

「そうだよな」

ため息混じりに呟くと、春海は訝しげに首を傾げた。

一昨日の夜、瑞穂がもらってきたという土産の裏についていたメモを見て、胸が不穏に音を鳴らした。

『明日、5時に裏口で待ってるよ』

その乱雑な文字は、男性のものに間違いないと思った。

瑞穂の好きな男なのか?

俺との結婚が嫌だった理由はこれなのか?

こんなふうに、いつも仕事の帰りに待ち合わせをして会っていたのか?

嫉妬で頭がおかしくなりそうだった。

だがキッチンで料理をしている瑞穂は、このメモに気づいていないようだった。

俺がこれを見せたら、瑞穂はどんな反応をするだろう。

焦って弁解するだろうか。

それとも『彼と付き合っている』と告白されるだろうか。

どちらにしても瑞穂の反応を見るのが怖くて、メモはくしゃりと丸めてスラックスのポケットに押し込んだ。