六月に入り、マンションの庭園には花菖蒲やあじさいが色づき始めた。
来週の天気予報は雨マークばかりだから、もうすぐ梅雨に入るだろう。
部屋の窓から見える景色が黒い雲で覆われてしまうのは少し憂鬱だ。
斗真さんと一緒に窓の外を見ながら食事をとれる時間が増えたから、余計にそう思うのかもしれない。
「瑞穂ちゃん、三番テーブル片付けてくれる?」
「はい」
マスターの言葉にうなづき、空になったカップや食器をお盆に乗せていると、ドアが開いた。
「いらっしゃいませ」
顔を上げると、微笑みながら入ってきたのは坂本さんだ。
「瑞穂ちゃん、こんにちは」
坂本さんはいつもと同じ席に座り、コーヒーをオーダーする。
「久しぶりじゃない?坂本さん」
マスターが問いかけると、坂本さんはため息混じりに苦笑いをする。
「まいりましたよ。急な仕事でしばらく九州に行ってたんです」
「そりゃ大変でしたね。ご家族は?」
「俺独身なんですよ。だから、身軽ではあるんですけどね」
坂本さんはカバンと一緒に持ってきたいくつかの紙袋を胸の位置まで掲げる。
「これ、九州のお土産。マスターの分と亜矢ちゃんの分。で、こっちは瑞穂ちゃんの分ね」
差し出された袋を、恐縮しながら受け取る。
「ありがとうございます。いいんですか?」
「うん、瑞穂ちゃんのために買ってきたからね」
紙袋はどれも同じものだけど、端にわざわざ『瑞穂ちゃん用』と走り書きされている。
「なに?坂本さん、私やマスターはおまけなんですかぁ?」
「こら、亜矢ちゃん」
亜矢が口を尖らせると、マスターが小声でそれを窘めた。
坂本さんはそれを否定するでもなくのんきに笑う。
来週の天気予報は雨マークばかりだから、もうすぐ梅雨に入るだろう。
部屋の窓から見える景色が黒い雲で覆われてしまうのは少し憂鬱だ。
斗真さんと一緒に窓の外を見ながら食事をとれる時間が増えたから、余計にそう思うのかもしれない。
「瑞穂ちゃん、三番テーブル片付けてくれる?」
「はい」
マスターの言葉にうなづき、空になったカップや食器をお盆に乗せていると、ドアが開いた。
「いらっしゃいませ」
顔を上げると、微笑みながら入ってきたのは坂本さんだ。
「瑞穂ちゃん、こんにちは」
坂本さんはいつもと同じ席に座り、コーヒーをオーダーする。
「久しぶりじゃない?坂本さん」
マスターが問いかけると、坂本さんはため息混じりに苦笑いをする。
「まいりましたよ。急な仕事でしばらく九州に行ってたんです」
「そりゃ大変でしたね。ご家族は?」
「俺独身なんですよ。だから、身軽ではあるんですけどね」
坂本さんはカバンと一緒に持ってきたいくつかの紙袋を胸の位置まで掲げる。
「これ、九州のお土産。マスターの分と亜矢ちゃんの分。で、こっちは瑞穂ちゃんの分ね」
差し出された袋を、恐縮しながら受け取る。
「ありがとうございます。いいんですか?」
「うん、瑞穂ちゃんのために買ってきたからね」
紙袋はどれも同じものだけど、端にわざわざ『瑞穂ちゃん用』と走り書きされている。
「なに?坂本さん、私やマスターはおまけなんですかぁ?」
「こら、亜矢ちゃん」
亜矢が口を尖らせると、マスターが小声でそれを窘めた。
坂本さんはそれを否定するでもなくのんきに笑う。