その後のランチタイムは、続々と客が訪れて目の回るような忙しさだった。

この店はオフィス街に近く値段も手頃なため、平日は多くのサラリーマンやOLが訪れるのだ。

今日は特に客の入りが多かったけど、忙しく仕事をしていたほうが気が紛れて助かる。

家にいたら悶々と考えて憂鬱になってしまっていただろう。


ランチタイムが終わり、客足も落ち着いた午後二時過ぎ。

テーブルに新しいカトラリーをセットしていると、鈴の音とともに年季の入った扉が軋んで開いた。

「いらっしゃいませ」

振り返ると、スーツ姿の長身の男性が入ってきた。

「こんにちは」

「坂本さん、いらっしゃいませ」

坂本さんはここひと月ほどよくきてくれる、四十代半ばくらいの常連さんだ。

彼はいつもの席であるカウンターの一番端に座ると、オリジナルコーヒーをオーダーした。

カウンターの奥で洗い物をしていると、彼は片手で頬杖をつきながらニコニコして私を見つめる。

「瑞穂ちゃん、今日もかわいいねえ」

「いえそんな……ありがとうございます」

坂本さんは平気な顔でいつもそんなことを言うから、私はちょっと反応に困る。

「照れた顔もかわいい」

坂本さんは茶化すようにクスクス笑って、どうしていいかわからず頬を熱くしながら縮こまった。

「坂本さん、あまり瑞穂ちゃんを揶揄わないでやってくださいね」

マスターは笑い混じりに言いながら隣でコーヒーの準備をしている。