「で、瑞穂ちゃんのことでも考えてたんだろ」

幸斗と瑞穂は、自宅に来た時に一度顔を合わせて挨拶をしただけで、会話らしい会話をしたことがないはずだ。

「たいして面識もないのに気安く呼ぶなよ」

「何?嫉妬?」

幸斗が意地の悪い顔をしてニヤリと笑い、罰が悪くて視線を逸らす。

「別にそういうんじゃない」

「ふうん?」

こいつはいつも全てを見透かしたような顔をして、俺の反応を楽しんでいるのだ。

実際、見透かされている部分も多いから余計に腹が立つ。

「そうだ、家具類は全部手配してあるから、引っ越しには間に合うようになってるよ」

「ああ。サンキュ」

新居への引っ越しにあたって、瑞穂は家具類に全くこだわりがないと言った。

幸斗が結婚祝いがてら家具のコーディネートをしたいと買って出てくれたため、全て任せることにしたのだ。

「瑞穂ちゃんのことばっかり考えてないで、ちゃんと仕事しろよ、副社長」

「今のところまだ副社長じゃないぞ。お前こそ油売ってないで仕事しろよ」

「はいはい。結納のとき瑞穂ちゃんに会えるの楽しみにしてるねー」

幸斗はひらひらと手を振ってドアの向こうへと去っていく。


深いため息を漏らし、窓の向こうに目をやる。

外は恨めしいくらいの晴天だ。

結納まであと三週間。

この忙しさでは、それまで瑞穂に会うことはできないだろう。

彼女は今仕事中だろうか。

俺との結婚について考えて、憂鬱になっているんだろうか。

こうなった以上、二年間彼女が快適に生活を送れるように全力を尽くそう。

そして二年後には気持ちよく別れよう。

それまではどうか……俺の妻として、そばにほしい。