日本に帰国してから二週間が経った。

帰ってきた早々、時差ボケを直す暇さえなく副社長就任の準備に追われたが、少しずつ日本での仕事のペースが掴めてきた。

冷めたブラックコーヒーの苦味を舌で転がしながら、パソコン画面の文字と数字の羅列を目で追う。

来週の取締役会までに、この資料を頭に叩き込まなければならない。

……なのに、うまく集中力が続かない。

ソファのように心地よいチェアの背もたれに体を預け、今日何十回目かのため息を漏らす。


倉橋家を訪問したのは昨日のことだ。

瑞穂に会えることを心待ちにしていたが、まさか彼女が結婚の話を知らないとは思わなかった。

当然瑞穂は俺との結婚に同意していると思っていたのだ。

だから、父親に結婚を知らされた時の瑞穂の戸惑った顔が目に焼きついて離れない。

時折瞳を潤ませていたし、彼女にとってこの結婚は不本意なのだと思い知らされた。