……ひどい。斗真さん、嘘をついていたんだ……

怒りと悲しみが入り混じり、拳を握って唇を噛んだ。

そのまま立ち尽くしていたら、ふいに車内の斗真さんと目が合った。

「瑞穂!」

焦ったようにドアを開いて身を乗り出した斗真さんに、私は背を向けて走り出す。

だけど、すぐに追いつかれて腕を掴まれた。

「瑞穂、待て!何か勘違いをしてないか?俺たちは――」

「斗真さん、やっぱり本当はずっと好きな人がいたんですね」

「なんの話だ」

「離して!もう聞きたくない!」

私の声に怯んだ斗真さんの手から逃れ、私は雑踏を縫って走る。

「瑞穂!」

斗真さんの声が遠ざかり、聞こえなくなったのを確認して足を止めた。

息が弾み、バクバクと心臓が音を立てている。

苦しいのは走ったせいなのか、さっきの光景を見たせいなのかわからない。

幸せから一気にどん底に落とされた気分だ。

息を整えながら、ハッとしてお腹に手を当てる。

急に走って、赤ちゃんをびっくりさせてしまったかもしれない。

「ごめんね」

囁きながらお腹をゆっくりとさすった。

「やっぱりあいつのことはやめなよ」

聞き覚えのある声に、反射的に背筋が凍る。

恐る恐る振り返ると、坂本さんが後ろに立っていた。