足音が少しずつ遠ざかるのを聞きながら、お互いにふうっと息が漏れる。

と同時に、斗真さんが私を強く抱きしめた。

「よかった。幸斗に何かひどいことをされたのかと思った」

「斗真さん……」

斗真さんが心配してくれたことが嬉しくて、彼の胸に顔を埋める。

だけど、私の背に回されていた腕はほんの数秒でそっと離れた。

「瑞穂は俺のことをそんなふうに見ていないんだよな。ハワイでのことも、ちゃんと謝ろうと思ってたんだ」

斗真さんの沈んだ声に、私はかぶりを振った。

『言葉にしないと分からないことってたくさんある。すれ違いが大きくなる前にお互いちゃんと話し合わないと』

幸斗さんの言葉を頭の中で反芻する。

その通りだ。言葉にしないと分からない。

斗真さんは私を愛してると言ってくれたんだから、私も斗真さんにちゃんと気持ちを伝えなきゃ。

緊張してごくりと唾を飲み、斗真さんの目をしっかりと見つめる。

「斗真さん、私はずっとあなたのことが好きだったんです。だから、結婚できたことが本当はすごく嬉しかったんです」

涙で滲んでいく視界に、斗真さんが目を見開くのがぼんやりと見えた。

「だけど、斗真さんにはほかに好きな人がいて、この結婚が嫌だから二年で別れたいんだって思って、悲しくて……」

彼はかがんで私の涙をぬぐい、髪をなでる。

「何を言ってるんだ。好きな女なんて瑞穂以外にいるわけない。二年と言ったのは、瑞穂は俺と結婚するのが嫌だと思ったからだ。俺だって瑞穂と別れたくなんかない」

「本当に……?」

「ああ」

もう一度、さっきよりもきつく抱きしめられ、私も斗真さんの背に手をまわす。

夢みたい。まさかこんな幸せな瞬間が訪れるなんて……