会場の中に入ると部屋の中央にある大きな
シャンデリアに目が行く。

それはいつも通りの夜会だった。
装飾品や並んでいる食事の質は良く
音楽隊なども兼ね備えていた。

いつもと違う所といったら
エスコート等の堅苦しい事をしなくて良い事だった。非常にアットホームでありながらも
招待客に気兼ねなく過ごして欲しい気持ちが伝わってくる。

とても居心地の良い会場だと
一行は感じていた。

他の招待客とそれぞれ挨拶を交わしながら
二手に別れた。

リコット、ルキアス、メイファン、ルーシアは目についた近くの空いている席に腰をかけた。

リアムは最初は使用人の待機室で待機の予定であったが、少し不自然な会場入りだったので、念の為ルキアスの側に控えている。

メイファンとルーシアは
冷や汗をハンカチで拭いながらも
周りをチラチラと見て不自然に見えないように警戒していた。

ルシウスとリチャード不在時に
『通り道』からS級の魔物が数体
飛び出してきた時のような気分だった。

その時、このパーティの主催者ブライト男爵が
人好きのする笑顔でルキアスに近付いてきた。

「殿下!今日はようこそ
おいでくださいました!
殿下がおいでくださるなんて至福の極みで
ございます。
今宵は楽しんで頂けておりますでしょうか?」

と、完全なるゴマすりで
ヘコヘコと品のない挨拶をする
ブライト男爵。

「うむ、今宵は招待に感謝申し上げる。
おかげで、我が弟と妹に久しく再会する事が
叶った。」
ははは、と、笑顔で対応するルシウス。

すると、ブライト男爵は
ルキアスの心を掴んだと思ったのか

「殿下、今宵は我が娘をお目通りさせても
よろしいでしょうか?とても気立ての良い娘でございます」

と、既婚者のルキアスに向かって
妹のルーシアの見てる目の前で
失礼極まりなく、いやらしい表情を
浮かべる。

それを見たルーシアは

無礼な!!
兄上になんていうことをっ!?
と、思わず声が出たが

ブライトはそれを完全に無視し
ルキアスの許可なく従者を呼びつけると
その従者を走らせて、娘を呼びに行かせた。