ローレルが王になってから、ローレルは学園に来なくなった。

 毎日のように貴族の犯罪がローレルによって暴かれ、親が厳しい罰を受けた影響で学園に通えなくなる生徒も少なくなかった。

 多くの貴族から恐れられるローレルだったが、平民の間では爆発的な人気を誇っているし、欲に溺れることなく過ごしていた少数の貴族たちからも大歓迎されている。

 リナリアのオルウェン伯爵家や、ケイトのライラック伯爵家も、ローレルの政策に賛同する貴族だった。

 だいぶ荒々しいが、ローレル王のおかげで、この国は確実に良い方向に向かっている。

 ギアムは、ローレルの徹底的な就労対策のおかげで、過酷な労働を強いられることがなくなり、結局、今でもローレルの右腕として王宮騎士をしている。

 弟のゼダは、変わらずシオンの護衛についているが、卒業後はローレルに仕えることになりそうだ。

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 あっと言う間に月日が過ぎて、ローレルの卒業パーティーの当日になった。

 ローレルは、卒業生代表の場で、今まで己が行ってきた悪事をすべて暴露。

 呆然する貴族の令息令嬢たちに、「私が完璧だと思っていると、あっと言う間にこの国は潰れるよ。せいぜい頑張って性格の悪い王を支えてね」と優しく微笑みかけた。

 在校生のリナリアとケイトもそのパーティーに参加していたので、ローレルの暴露大会を聞きながらあきれていた。

(まぁ、これでシオンの悪評も綺麗になくなるわね)

 少し時間がかかってしまったが、ローレルは『シオンの名誉を回復する』という約束を守ってくれた。

(もっと早くできただろうけど、あのローレルのことだから、卒業パーティーで卒業生をどん底に落としてやったら面白そう、とか思っていそうだわ……)

 リナリアがそんなことを考えていると、ケイトが「我が国の王は、とんでもないわね。でも、打ち出す政策はどれも完璧だし、周辺諸国ともとても良い関係を築いているって、私の父が褒めていたわ。ローレル陛下はやっぱりとても優秀なのね。それに、今のほうが、まえよりもずっと楽しそう」と言ったので、リナリアは「そうね。私の両親もローレルの人間性はともかく、打ち出す政策はとても褒めているわ」とうなずいた。

 混乱するパーティー会場の中で、シオンとゼダが近づいてきた。いつもの制服姿とは違い、正装をしているシオンにリナリアの胸は激しくときめく。

「リナリア、そのドレスとっても似合っているよ」

 シオンが贈ってくれた薄紫色のドレスは、シオンの瞳と同じ色だ。チラリとケイトを見ると、ゼダにドレスを褒められて、嬉しそうに頬を染めている。

(なんだか、いろいろあったけど、これでハッピーエンドよね?)

 リナリアがそう思っていると、騒ぎの元凶のローレルがこちらに向かって歩いてきた。

「リナリア!」

 嬉しそうに名前を呼ばれて気が滅入る。シオンも不機嫌さを隠そうともしない。

「ローレル、私の婚約者を馴れ馴れしく呼ばないで」

 そう言ってもローレルは少しも引く気はない。

「確かにリナリアはシオンの婚約者だけど、私にとっては、リナリアは初恋で真実の愛の相手なんだ。二人の婚姻は認めているんだから、名前くらい呼ばせてよ。別に私はリナリアの愛がほしいわけじゃないんだから」

「嫌だ! それを言うなら、私だってリナリアが初恋で真実の愛の相手だよ!」

 いがみ合う二人を横目に、ケイトがボソッと呟いた。

「リナリアって……初恋をこじらせている男性に執着される呪いにでもかけられているの?」
「こ、怖いこと言うの、やめてよ!?」

 リナリアが苦情を言うと、地獄耳のローレルが「執着じゃないよ、溺愛だよ」と訂正し、シオンも「そうだよ」と同意する。

(こういうときだけは、仲が良いのよね……この二人)

 あきれながらリナリアがケイトを見ると、ケイトもあきれた顔をしていた。

「分かりました。では、リナリアは初恋をこじらせている少し病んだ殿方たちに溺愛される呪……じゃなくて、祝福を得ているのですね……」

 ケイトがリナリアの耳元で「今度、一緒にお祓いにでも行く?」と言ったので、リナリアは静かにうなずいた。


おわり





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