「というわけで、ギアム様とお話がしたいんです」
リナリアが真剣にシオンに伝えると、シオンは「分かったよ」と優しく微笑んでくれた。
(良かった……)
大柄なギアムに一人で話しかけるのは怖かったので、シオンが一緒にいてくれると心強い。
シオンは「今日の私の護衛はゼダだから、寝ているギアムを探して声をかけよう」と提案してくれた。
「ギアムは、私たちが授業を受けている間は、庭園のベンチで寝ているから、そのときがいいかもね。授業をサボってしまうことになるけど、リナリアは大丈夫?」
「うっ」
今まで授業をサボったことなんて一度もないが、背に腹は代えられない。
「だ、大丈夫です!」
リナリアがカラ元気で答えると、シオンに「顔が強張っているよ」と笑われてしまう。
馬車が学園へと着いた。いつも通り王家の紋章がついた馬車が止まると、すぐに生徒たちに囲まれる。
昨日までは『しっかりとシオンの恋人のふりをしないと』と緊張していたのに、『今日からはふりではなく本当の恋人なのね』と思うと急に気恥ずかしくなってきた。
「どうしたの、リナリア?」
「あ、いえ……今日から私、本当にシオンの恋人なんだなぁって思って……」
シオンは「今まで通りで良いんだよ」と言いながら、リナリアの髪にキスをする。
「でも、シオンは、今までより積極的な気がします……」
「気のせいだよ」
上品な笑みを浮かべるシオンを見て、リナリアは『この笑顔のときは、シオンは本当のことを言っていないような気がする』と察した。
先に馬車から降りたシオンは、リナリアの手を優しくとる。
「さぁどうぞ、私の愛しのお姫様」
馬車の周囲で女生徒の黄色い悲鳴が上がった。
**
午前中の授業を終え、お昼休みにケイトと一緒に昼食を取ったあと、リナリアは自身のお腹を押さえた。
「お腹が痛い……ような気がするわ」
「大丈夫!?」
心配してくれるケイトに、リナリアは「大丈夫、仮病だから」と伝えた。
「え?」
驚くケイトに事情を説明して、午後の授業を休むことを伝えるとケイトは「分かったわ。先生には上手くいっておくね」と快く協力してくれる。
ケイトと別れたリナリアは、シオンと待ち合わせをしている場所へと向かった。授業が始まるチャイムの音が聞こえる。
生徒たちの姿がない学園は、まるで別世界のようだった。授業をサボった罪悪感と見つかったらどうしようという緊張感の中、リナリアは誰もいない廊下を走った。
庭園の入口で待ち合わせをしていたシオンの姿を見つけると、リナリアはホッとして緊張が緩む。
「うまく抜け出せたみたいだね」
「すごく緊張しました」
シオンが「リナリアは真面目だね」と言うので「シオンは、サボったことあるんですか?」と聞くと、シオンは予想外に「もちろん」と答えた。
「前にも言ったけど、私もローレルも、全ての学業は終わっているから、本当は学園に来なくても良いからね」
「そっか、そうでしたね」
二人並んで庭園の中を歩いた。背景に花を背負うシオンはとても絵になっていて、気を抜くとみとれてしまう。
(あれ? そういえば、ゼダ様がいないわね?)
護衛のゼダの姿がないのでシオンに尋ねると、シオンは「念のためローレルの監視をお願いしておいたよ。もし、ローレルがこっちに向かったら報告してくれることになっているんだ」と教えてくれる。
「さすがシオン」
リナリアが素直に褒めると、シオンは「リナリアに褒められると嬉しいよ」と無邪気に微笑む。
(この笑顔は本物っぽいかな?)
シオンのことをよく観察すると、麗しい王子様の下に隠された本当のシオンが、少しずつ見えてきたような気がした。
「あそこにいるね」
シオンが指さすほうを見ると、屋根付きの簡易休息場に置かれたベンチにギアムが寝転がっていた。リナリアが静かに近づこうとすると、シオンがリナリアを止める。
「ギアム、もう気がついているんだろう?」
ゆっくりと起き上がったギアムは「殿下。なんの用ですか?」と言いながら大きなあくびをする。相変わらずネクタイをつけていないので、ギアムの学年は分からない。
「リナリアから話があるんだ」
ギアムがこちらを見た。その瞳の鋭さにリナリアは思わず息を呑む。
ギアムは肩まで伸びた髪をうっとうしそうにかき上げながら「何か?」と不愛想に聞いてきた。
(怖い……)
この学園には存在しないので分からないが、もしかすると、こういう生徒を『不良』というのかもしれない。
「あ、えっと……」
何をどう話そうかと迷っていると、シオンがリナリアの手を握ってくれた。
「リナリア、落ち着いて。ギアムに話しかけたくらいで、取って喰われたりはしないから」
「殿下。なんスか、それ」
ハハッと笑うギアムを見て、リナリアは『笑った!?』と驚いた。
(そんなに怖い人じゃないのかな?)
勇気を出して「あの、ギアム様」と声をかけると「ギアムで良いですよ」と返ってくる。
「いえ、そういうわけには……。えっと、今日はギアム様をセリー商会に引き抜きたくてお声をかけさせていただきました」
「セリー商会?」と呟いたギアムは「はて?」と首をかしげている。
シオンが「知っているよね?」と尋ねると、ギアムは「いえ、聞いたことがあるような気がしますが知りません」と答えた。
「この国で一番大きな商会を知らないってどういうこと?」とシオンがため息をついている。
「いや、俺は酒しか興味ないですから」
「知っているよ。お酒のためだけに働いているんでしょう?」
二人の会話を聞いて、今度はリナリアが首をかしげた。
「お酒って……ギアム様は未成年なのに?」
この国の法律では、学園を卒業してからではないと酒類を飲んではいけないことになっている。ギアムはガシガシと頭をかいた。
「ああ、俺、もう成人しているんで」
「ギアムは、数年前に学園を卒業しているんだよ」
「そうそう。それなのに、学園で騎士服は目立つからって、無理やり制服を着せられて痛いったらありゃしないですよ」
その話を聞いてリナリアは、ギアムがネクタイをつけていない理由がようやく分かった。
リナリアが真剣にシオンに伝えると、シオンは「分かったよ」と優しく微笑んでくれた。
(良かった……)
大柄なギアムに一人で話しかけるのは怖かったので、シオンが一緒にいてくれると心強い。
シオンは「今日の私の護衛はゼダだから、寝ているギアムを探して声をかけよう」と提案してくれた。
「ギアムは、私たちが授業を受けている間は、庭園のベンチで寝ているから、そのときがいいかもね。授業をサボってしまうことになるけど、リナリアは大丈夫?」
「うっ」
今まで授業をサボったことなんて一度もないが、背に腹は代えられない。
「だ、大丈夫です!」
リナリアがカラ元気で答えると、シオンに「顔が強張っているよ」と笑われてしまう。
馬車が学園へと着いた。いつも通り王家の紋章がついた馬車が止まると、すぐに生徒たちに囲まれる。
昨日までは『しっかりとシオンの恋人のふりをしないと』と緊張していたのに、『今日からはふりではなく本当の恋人なのね』と思うと急に気恥ずかしくなってきた。
「どうしたの、リナリア?」
「あ、いえ……今日から私、本当にシオンの恋人なんだなぁって思って……」
シオンは「今まで通りで良いんだよ」と言いながら、リナリアの髪にキスをする。
「でも、シオンは、今までより積極的な気がします……」
「気のせいだよ」
上品な笑みを浮かべるシオンを見て、リナリアは『この笑顔のときは、シオンは本当のことを言っていないような気がする』と察した。
先に馬車から降りたシオンは、リナリアの手を優しくとる。
「さぁどうぞ、私の愛しのお姫様」
馬車の周囲で女生徒の黄色い悲鳴が上がった。
**
午前中の授業を終え、お昼休みにケイトと一緒に昼食を取ったあと、リナリアは自身のお腹を押さえた。
「お腹が痛い……ような気がするわ」
「大丈夫!?」
心配してくれるケイトに、リナリアは「大丈夫、仮病だから」と伝えた。
「え?」
驚くケイトに事情を説明して、午後の授業を休むことを伝えるとケイトは「分かったわ。先生には上手くいっておくね」と快く協力してくれる。
ケイトと別れたリナリアは、シオンと待ち合わせをしている場所へと向かった。授業が始まるチャイムの音が聞こえる。
生徒たちの姿がない学園は、まるで別世界のようだった。授業をサボった罪悪感と見つかったらどうしようという緊張感の中、リナリアは誰もいない廊下を走った。
庭園の入口で待ち合わせをしていたシオンの姿を見つけると、リナリアはホッとして緊張が緩む。
「うまく抜け出せたみたいだね」
「すごく緊張しました」
シオンが「リナリアは真面目だね」と言うので「シオンは、サボったことあるんですか?」と聞くと、シオンは予想外に「もちろん」と答えた。
「前にも言ったけど、私もローレルも、全ての学業は終わっているから、本当は学園に来なくても良いからね」
「そっか、そうでしたね」
二人並んで庭園の中を歩いた。背景に花を背負うシオンはとても絵になっていて、気を抜くとみとれてしまう。
(あれ? そういえば、ゼダ様がいないわね?)
護衛のゼダの姿がないのでシオンに尋ねると、シオンは「念のためローレルの監視をお願いしておいたよ。もし、ローレルがこっちに向かったら報告してくれることになっているんだ」と教えてくれる。
「さすがシオン」
リナリアが素直に褒めると、シオンは「リナリアに褒められると嬉しいよ」と無邪気に微笑む。
(この笑顔は本物っぽいかな?)
シオンのことをよく観察すると、麗しい王子様の下に隠された本当のシオンが、少しずつ見えてきたような気がした。
「あそこにいるね」
シオンが指さすほうを見ると、屋根付きの簡易休息場に置かれたベンチにギアムが寝転がっていた。リナリアが静かに近づこうとすると、シオンがリナリアを止める。
「ギアム、もう気がついているんだろう?」
ゆっくりと起き上がったギアムは「殿下。なんの用ですか?」と言いながら大きなあくびをする。相変わらずネクタイをつけていないので、ギアムの学年は分からない。
「リナリアから話があるんだ」
ギアムがこちらを見た。その瞳の鋭さにリナリアは思わず息を呑む。
ギアムは肩まで伸びた髪をうっとうしそうにかき上げながら「何か?」と不愛想に聞いてきた。
(怖い……)
この学園には存在しないので分からないが、もしかすると、こういう生徒を『不良』というのかもしれない。
「あ、えっと……」
何をどう話そうかと迷っていると、シオンがリナリアの手を握ってくれた。
「リナリア、落ち着いて。ギアムに話しかけたくらいで、取って喰われたりはしないから」
「殿下。なんスか、それ」
ハハッと笑うギアムを見て、リナリアは『笑った!?』と驚いた。
(そんなに怖い人じゃないのかな?)
勇気を出して「あの、ギアム様」と声をかけると「ギアムで良いですよ」と返ってくる。
「いえ、そういうわけには……。えっと、今日はギアム様をセリー商会に引き抜きたくてお声をかけさせていただきました」
「セリー商会?」と呟いたギアムは「はて?」と首をかしげている。
シオンが「知っているよね?」と尋ねると、ギアムは「いえ、聞いたことがあるような気がしますが知りません」と答えた。
「この国で一番大きな商会を知らないってどういうこと?」とシオンがため息をついている。
「いや、俺は酒しか興味ないですから」
「知っているよ。お酒のためだけに働いているんでしょう?」
二人の会話を聞いて、今度はリナリアが首をかしげた。
「お酒って……ギアム様は未成年なのに?」
この国の法律では、学園を卒業してからではないと酒類を飲んではいけないことになっている。ギアムはガシガシと頭をかいた。
「ああ、俺、もう成人しているんで」
「ギアムは、数年前に学園を卒業しているんだよ」
「そうそう。それなのに、学園で騎士服は目立つからって、無理やり制服を着せられて痛いったらありゃしないですよ」
その話を聞いてリナリアは、ギアムがネクタイをつけていない理由がようやく分かった。