私立・楽園ミカエラ大学附属高等学校。

私立Fラン大学の高等部はそれなりに頭が良いということがたまにあるが、鏡花の高校も例に漏れずそのパターンで、地域ではそれなりに名の通った名門校である。
お嬢様学校に相応しい灰色のセーラー服に身を包んでスカートをこれでもかと言うくらいに折り曲げた鏡花は、顔を上げた。

「で、私に用って何?」

背中まで伸びた鏡花の黒髪は秋風に靡き、思わずハッとするような眼力を秘める黒曜石のような瞳は、じっと目の前の男に注がれていた。

(やっべえ、改めて近くで見てみると超可愛い)

本当にこの美少女が、不細工好きなのだろうか。男はごくりと唾を飲んだ。

「あの、さ。久住さん」
「はい」
「あの、僕のこと、知ってる?へへ」
「知らない」

ピシャリと切られ、男は肩を落とす。

「一応、委員会一緒なんだけどね」
(というより、久住さんと一緒になりたくて、委員会を合わせたんだけどね)

「そうだっけ?私、いつもボーッと聞いてるだけだからさ」

鏡花の澄んだ声が、晴れた空に吸い込まれていく。

「用って話がしたかっただけ?もう戻っていい?」

寒がりなのか、スカートから真っ直ぐに伸びている長い足を摺り寄せ軽く左右に動かしている鏡花に、男は覚悟したように目を開いた。

「好きなんだ、久住さん!」
「えっ」

寒さに若干顰められていた端正な顔が、一瞬で驚きに染まる。男はもう後戻りできないと、続けた。

「初めて廊下ですれ違った時、君に一目惚れしたんだ。ずっと話しかける勇気がなくて、でも想いは伝えたくて」
「……そう。それで、私を呼んだのね」

鏡花はふわりも天使のように微笑むと、一歩、足を前に進めた。足を止めることなく男の目と鼻の先までやってくると、男のニキビだらけの頬に手を伸ばした。

「ありがとう、すごく嬉しい」

いつもの淡々とした口調はどこへやら、鏡花は生娘のように頬を染め、声を弾ませていた。

「それって、俺の彼女になってくれるってこと!?」
「うーん、いいんだけどね。私今彼氏12人いるの」

時が止まった。
男は「じゅ、12?」と仰天した。

「それでもいいなら13番目の彼氏にしてあげる。どうかな?えーと、名前は…」
「宮井!」
「あ、そうそう宮井くん。それで返事は?

薄い唇がゆっくりと弧を描き、挑発的な表情で宮井の返事を待つ鏡花。
宮井はしばらく葛藤したものの、自分のような不細工がこんな容姿端麗な女性と付き合うなんて天地ひっくり返ってもあり得ないので(まさに今起こっているが)、多少の感情は飲み込んだ。男はみんな、下心には弱いのだった。

「分かった……!今日から、よろしく!」
「ふふ、ありがとう。こちらこそ、よろしく」