『こんばんは〜!今日も配信見てくれてありがとう。NAGIです。今日はリクエスト曲をメインに歌いまーす!最後には新曲もあるので楽しみにしててね!』

(うーん♥今日も絶好調に良い声!)

コンビニの前で凪に偶然出会ってから1週間が経った。

クリーニングから凪の服が戻ってきたので、千夏は仕事の後、泉に凪の服を返しに行こうと電話をしたのだが予定があると断られてしまった。

直接カフェに服を持っていって凪に返しに行く方法もあったが、千夏と泉の関係をはっきり知っているとは言わず、におわせ程度にしかいつも言ってこないのでこちらから尻尾を出す訳にはいかない。と考えてそれはやめにした。しかし、急遽、NAGIのリクエスト曲の歌配信と同時に新曲発表が行われるとフォローしていたSNSより通知があったので泉に予定があってラッキーだったと喜びラップトップを開いて待機しているとやっと配信が始まった。

(それにしてもNAGIと泉さんの声ってそっくり。)

千夏は『千夏さん』と自分の名前を愛しそうに呼ぶ泉を思い浮かべると急に恥ずかしくなった。千夏としては『好き=付き合う』という考えの持ち主なので泉に『付き合えない』と宣言された時はとても驚いた。

(泉くんは私のこと好きとは言ったけれど、本命の彼女が別にいるのかな?だから付き合えない。って言ったの…?)

泉のことを思い出す度に、付き合う気もないのに自分を抱いたせいなのか、それとも、あの低く響く声に囁かれ2度も流されてしまった自分に対してなのか、イライラともモヤモヤとも言えないスッキリしない気持ちになった。

(実際、泉くんって何歳なんだろう…。凪ちゃんのお兄さんだから私と同じくらい?かな?)

2度も夜を共にしたのに泉について知っていることといえば、家と名前だけだと気付く。短大を卒業して仕事を始めて3年目。千夏は今年23才になる。『千夏さん』と『さん』付けで呼ばれてることから泉は年下なのかもしれないと予想を立てみる。そして、以前、カフェのオーナーが凪ちゃんが高校生だと話していたことを思い出した。

(…やっぱり、同じくらいかちょっと下ね。もし下なら、年下相手に私ってば何やってんだか…。)

実際、凪は女性にしては身長が高めだが、逆に泉は男性としては低い方でなぎと同じくらいだった。それでも千夏よりかは背が高い。

(遺伝って上手い事行かないものね…。)

身長はそんなに高くなくとも、千夏を抱えて自宅まで連れてくるほどの筋力はある。抱かれているときに感じた男性特有の筋肉の硬さは千夏の好みの体系だった。体系のことを考えていたらやっぱり一つの疑問にたどり着く。

(…借りた服は本当に凪ちゃんのもの?)

凪が着るには小さめではなく小さすぎるのだ。何度も考えた自分とは付き合えない理由。あの服は凪ちゃんのものではなくて本命の彼女のものだったのでは…。そんな考えが浮かんできたのだ。

(今日は本命の彼女がいるから会えなかったの?)

千夏は泉のことを少し意識し初めていたが、浮気相手になり修羅場を迎えるつもりも、誰かのものを奪うつもりもない。モヤモヤとした気持ちが更に心の中を広がっていった。

『リスナーのみんなー!次は何が聞きたい?』

NAGIの声で我に帰る。

「やだ…。せっかくの配信中に私たら余計なことばかり考えてた。NAGIの配信に集中っと!」