空虚な君に、この栞を

「そりゃあ一目惚れでしょ。」

 恋愛脳のあかりに言わせるとまあそうなる。化学室から帰る廊下で遅れた理由を話していると光輝が間に入ってきた。

「え、何。誰が誰に?」
「お~すごい地獄耳。光輝くんにとっては一大事だもんね。」
「で?まさか菜子が?」

 一目惚れ?確かに状況だけ見ればいかにもな感じだ。整った顔立ちの男の子と、出会い頭に受けとめられる。少女漫画にありそう。
 でもそんな胸がときめくようなものではない。どちらかというと違和感のようなもの。何に対してなのか分からないけれど……。

「で、どいつ。」
「もう、光輝うるさい。今考えてるのに。」
「何を?そいつが好きかどうか!?」
「お、菜子の話の特徴にぴったり。青みがかった黒髪の爽やかボーイ発見。」

 あかりが手を眼鏡のようにして一点を見つめている。キッと目を向けた光輝とともにその方向を見ると、いた。さっきの男の子だ。暗い階段と違い、雪で反射した光を受けた髪はさっきよりも澄んだ色をしている。凛とした目元にはさっき見たような笑みはないけれど、代わりに少し憂いを帯びたように伏せがちで。爽やか、清廉、綺麗……私の国語力がもう少しあればもっとぴったり当てはまる言葉があるのかもしれないが、目を惹きつけられる容姿なのは確か。
 遠くにいる私たち3人の凝視に気づくはずもなく、廊下の端っこで窓の外の雪を眺めている。かと思えばふらりと数歩歩いたり、また窓の外を見たり。
 しばらく見ていると、違和感の正体が分かった。