机の上にポツンとおかれたファイルを手に取り、再び教室を出た。廊下の時計を見上げると、授業開始時刻に近づいている。制服のジャケットを脱いで白衣を着た分、シャツの隙間に冷えた空気が入り込んで身震いしたくなるが、足を止めるわけにはいかない。
階段を半ばまであがり、あと少しと身を翻した瞬間、体にトンと軽い衝撃が走る。
「きゃっ!」
「おっと、危ない。」
人にぶつかったのだ。そう理解し体が少しよろけそうになったところを、その人が受け止めてくれる。肩に控えめに置かれた両手が、私の無事を確認するとすぐに離れた。
「……大丈夫でしたか?ごめんなさい。」
「いえ、私が走っていたのが悪かったんです。こちらこそごめんなさい。」
先輩だったらどうしようかと思ったけど、襟元についている学年章はⅠ。同級生だ。だからといってぶつかっていいわけではないんだけど。
そのまま目線を上に移すと、少し青みがかった黒の髪と瞳。透き通ったその色素に目を奪われる。背丈は光輝と同じくらいで私より少し高く、柔らかな笑みをたたえていていかにも優しそう。きっとモテるんじゃないかなと確信した。
「では、失礼します。」
男の子はそのまま下りていった。さっきまで私がいた1年生のフロアだから自分の教室に戻ったのだろう。私と同じく忘れ物か、それか先生に質問とか?何をしていたんだろう。こんな授業開始直前まで――
「あ、授業!」
気づいたと同時に容赦なく号令が聞こえた。
化学室に滑り込むと川上先生には少しにらまれてしまったものの、何も言われずに済んだのが幸いだった。席に着くと同じ実験班の光輝は呆れ顔。
大好きな実験だったはずなのに、さっきの男の子がなぜだか頭から離れなくて集中できなかった。
階段を半ばまであがり、あと少しと身を翻した瞬間、体にトンと軽い衝撃が走る。
「きゃっ!」
「おっと、危ない。」
人にぶつかったのだ。そう理解し体が少しよろけそうになったところを、その人が受け止めてくれる。肩に控えめに置かれた両手が、私の無事を確認するとすぐに離れた。
「……大丈夫でしたか?ごめんなさい。」
「いえ、私が走っていたのが悪かったんです。こちらこそごめんなさい。」
先輩だったらどうしようかと思ったけど、襟元についている学年章はⅠ。同級生だ。だからといってぶつかっていいわけではないんだけど。
そのまま目線を上に移すと、少し青みがかった黒の髪と瞳。透き通ったその色素に目を奪われる。背丈は光輝と同じくらいで私より少し高く、柔らかな笑みをたたえていていかにも優しそう。きっとモテるんじゃないかなと確信した。
「では、失礼します。」
男の子はそのまま下りていった。さっきまで私がいた1年生のフロアだから自分の教室に戻ったのだろう。私と同じく忘れ物か、それか先生に質問とか?何をしていたんだろう。こんな授業開始直前まで――
「あ、授業!」
気づいたと同時に容赦なく号令が聞こえた。
化学室に滑り込むと川上先生には少しにらまれてしまったものの、何も言われずに済んだのが幸いだった。席に着くと同じ実験班の光輝は呆れ顔。
大好きな実験だったはずなのに、さっきの男の子がなぜだか頭から離れなくて集中できなかった。
