空虚な君に、この栞を

「菜子、次の時間化学室だよ。」
「あ、分かった。」
「てかさあ、さっきの国語の文法問題分かった?」
「全っ然。」

 始業式の日から数日たち、授業も本格始動していく。特に私は国語が苦手だ。普段使っている言葉を扱う教科なのに、なぜ問題になると解けないのだろう。おそらく私にはセンスが無いのだ。

「7割だな。」
「何が?」
「文法問題の打率。」
「結構解けてるじゃん。あかりすごいね、私は手も足も出ない。」
「あはは~。菜子は文系無理だもんね。」

 そう。私は理系なのだ。たとえテストで平均点より少し下だとしても私は理系。私の中では得意教科だからそう信じている。化学室へ行く足も軽やかなものだ。階段を上がり、めったに使われない調理室やPCルームの前を通るとお待ちかねの化学室が現れる。
 部屋に入ると机の上に置かれたスポイトやバーナーが出迎えてくれた。やった。今日は実験をするみたい。担任かつ化学の先生である川上先生は前の時間から準備をしていたようで、黒板にはぎっしりと作業手順が書かれている。指示の通りに、休み時間のうちに白衣を着る。昨日わたされた予習プリントを用意しようとして気づく。ファイルを教室に忘れた。

「もうっ。軽やかな足取りなんじゃなくて本当に荷物が軽かったんじゃん!」

 誰に言うわけでもない文句を言いながら急いで教室へ戻る。