「おはよ、あかり。そんで、菜子!新学期早々おいていくなよ!」
「寒い中ずっと待ってられないじゃん。早く起きてよね。」
「あらら、いつもはしっかり待ってるんじゃん。やっぱり?」
「彼氏じゃないよ。」

 「はーい。」とあかりは両手をあげて降参の合図。そして数学の課題とにらめっこ。からかってはくるが、引き際は見極める。あかりのそんなところが好きで1、2学期と一緒にいるのだ。
 一方の光輝はというと、まだ納得していないようで。

「こんな寒空の下、一人で歩くと心まで凍えちまうだろうが。」
「じゃあ他の子と来たらいいじゃん。林くんとか、私より家近いんだし。」
「そうじゃなくて、おれはお前と――」
「あ、髪が跳ねまくってる。せっかく切ったんなら整えてから出発しなよ。」
「え、気づいた?整える程度でそんな切ってないのに……。」

 光輝の明るい茶髪の変化ぐらい気づく。16年も一緒にいるのだ。当たり前のことなのに、当の本人はなぜか嬉しそう。まあ機嫌が直ったならそれでいい。元気に天井へと伸びている頭のてっぺんの髪の毛を手で押さえてあげると、少しはおさまったようだ。

「……って!弟扱いすんじゃねえ!」
「また不機嫌になった……。直してあげただけじゃん。」
「これは男のプライドの問題。」

 なんだそりゃ。幼なじみだけど、よく分からないこともある。
 話しているうちにクラスメイトが続々と教室に入ってきて、教室も心なしか温まってきた。2週間程度の短い冬休みで大きく変わるのは年の数字くらいで、2学期と変わらない日常が戻ってくる。その証拠に、いつもと変わらない朝礼のベルが鳴り響いた。