「え、私? なにが……」
「金の夫婦の卵 になりたい? 上村は、なんでこの学校、選んだの」
「私、は……」
食事の手をとめて私をまっすぐ見つめる凪くんの視線に射抜かれて、考える。
もしも、もしも。
3年後、金の夫婦の卵に選ばれたら、凪くんと私は結婚することになる。そういう、決まりだから。
『……っ、凪くんと一緒にいると、苦しいの』
よみがえるのは、最低だったあの日の記憶。
私の言葉で凪くんを深く傷つけてしまった、忘れたくて、でもどうしようも忘れられないあの日のこと。
あんなひどいことを言った私のことなんて、嫌いになるに決まってる。
顔も見たくないって思われていても、おかしくない。
今こうやって、向かい合わせでごはんを食べてくれているのも、私がパートナーになってしまったから、凪くんが優しいから、仕方なく……。
そんな私が、凪くんと結婚なんて。
「金の夫婦の卵には、なれなくていいの。私がこの学校に来たのは────」
凪くんを超える、運命の人と出逢いたかったからだよ。
大好きな凪くんのことを、諦めるために。
「……なんとなく、だよ。テレビのCMで見て、それで。話題になってたし……」
嘘ばかり。
凪くんと一緒にいるときの私は、嘘つきだ。
きゅ、と唇を結ぶと、凪くんも黙りこんで沈黙が訪れる。
ほんとうのことなんて、言えるわけがない。
凪くんのことが好きだなんて、私には言う資格がない。
凪くんのことを傷つけた罪を背負っている以前に、私は、凪くんには不釣り合いすぎるから。



