「もう一度、俺の彼女になってくれますか」
凪くんは王子様の格好で跪いて、私に手を差し出した。私はもちろん首を縦にふって、手を重ねるけれど。
「凪くん、王子様は嫌なんじゃないの?」
「嫌に決まってるだろ」
「えっ、じゃあ……」
「こーいうの、りりにしかしねえ」
凪くんの口からきっぱりと放たれた言葉が、私を “特別” なんだと示している。
「あの、ずっと気になってたんだけど」
「うん?」
「凪くんは……私のどこを好きになってくれたの? ほら、私って平々凡々でどこにでもいるような人間だし、特別なところとかないし」
「秘密」
「え!」
「りりの良いところはいっぱいあるけど、俺だけが知ってればいいし。ていうか、りりは特別だろ」
「ええ、どのあたりが……」
「俺は、りりにしかドキドキしない」
また、ピコーン!と音が鳴る。
ああ、そろそろ出ないと怒られちゃうかな。
でも、まだひとつ。
最後にひとつだけ確認してもいいかな。
「じゃあ……寮にいるとき、そっけないのはどうして?」
純粋な疑問をぶつけた私に、凪くんはなぜかいじわるく口角を上げた。
「わかんねえの?」
「わ、わかんないよ……」
鈍感、と軽く私の額を小突いた凪くんは、甘ったるい顔をして私との距離をぐいと詰めて。
「警報鳴ったら困るだろ」
────優しく重なった唇からは、嘘いつわりのない、ほんとうの気持ちだけがぎゅうぎゅうに伝わってきた。
END