ꗯ.*
⑅
早く凪くんに返事をしなきゃ。
そう思うのに、一向に答えを出せないまま時間ばかりが過ぎていく。
好きだ、って言ってくれて、泣きたくなるほど嬉しかった。
だって、私も凪くんのことが、好きだから。
だけど、だけど……。
好きだ、って気持ちだけで凪くんのとなりにいてもいいの?
何のとりえもない私は、凪くんの隣にいる資格はあるの?
不釣り合いなことに耐えられなくなって、また、凪くんを傷つけてしまうかもしれないのに。もう、そんなことはしたくないのに。
ぐるぐると悩んでいたタイミングで、期末試験の成績が発表された。スマホの画面をスクロールして確認して……。
「13位、藤吉凪……」
偏差値の高い七海学園での13位は、かなり上位だ。そして、対する私は。
「……120位、かあ」
ちょうど真ん中。
これでも頑張ったつもりだった。結果としては悪くはない、のかもしれないけれど、凪くんと比べるとてんでだめ。
やっぱり、私は。
私じゃ、凪くんの隣には────。
「凪、くん」
部屋に戻るなり、凪くんの袖を引いて。
決心が揺るがないうちに、と口を開く。
凪くんの目が上手く見れないのは、これから、また、心に嘘をつこうとしているから。
「ごめん、なさい」
「……」
「私、凪くんの気持ちには、やっぱり、答えられない、よ」
痛い。
胸の奥がギシギシと悲鳴を上げている。
でも、これが正解のはずだから。
凪くんには私じゃなくて、もっと、他に釣り合う素敵なひとがいるはずだから。
「だから、トレードして他の子と────」
「りり」
うつむく私の頬を凪くんが挟んで持ち上げる。
涙がにじんで揺れる視界の奥に、凪くんの真剣な表情が見えた。
「りり、ちゃんと俺の目見て言って」
そう言われて、ハッとした。
凪くんは、気づいているんだ。
私が私のほんとうの気持ちから逃げていることに。
そんな私の本心と向き合おうとしてくれるくらい凪くんは、本気で、私のことを思っていてくれているんだって今さら気づいた。
だめだ、もうこの恋に嘘はつけない。
自信が持てない私が嫌い。
とりえのない私が嫌い。
だけど、一番は、嘘つきな自分が、嫌い。
大好きな凪くんに、一番まっすぐでいたい相手に、嘘ばかりつき続けている自分が、醜くて仕方ない。
「っ、ごめん、凪くん」
ちゃんと、今度こそはちゃんと、向き合おう。
私のすぐにくじけてしまう弱い心から逃げずに。凪くんに恥じない私でいたいから。
「もう1回、ちゃんと考える。それで……今度は、ちゃんと、私のほんとうの気持ちを伝えるから、だから」
「うん、待ってる」
もう十分待たせているのに、凪くんはやっぱり優しく笑うんだ。