じっと私を見つめた凪くんは、目を伏せて。




「……なんか、その格好、『シンデレラ』思い出すな」




その言葉に、久しぶりに思い出した。

中学1年生のときの『シンデレラ』の劇のこと。


懐かしさに気が緩んで、一度も凪くんに話したことのなかった恋に落ちた瞬間のことが口からすべり落ちた。




「慣れないガラスの靴で足をすべらせて……そしたら、はしっこに立ってたはずの木の凪くんが私のことキャッチしてくれて、そのとき、好きだって思ったんだった」

「……じゃあ、俺の方が先だ」




へ? と首を傾げた私に凪くんは目を細める。




「俺の方が先に好きになってたよ」

「えっ、いつ?」



「さあ。明確に意識したのは、俺が王子役を押しつけられそうになって、りりが声を上げてくれたとき。だけど、その前から気になってたし、本番で階段からりりが腕のなかに落ちてきて、そのとき思った。あ、運命だって」




もう終わったこと。


むかしむかしの昔ばなしなのに、心臓がドキンドキンとうるさい。



耐えきれず、目を逸らそうとした私の顎を「逃がさない」とでも言うように凪くんがそっと掴んで引き戻した。




「りり」

「……っ」

「俺、りりのことが好きなんだけど。今も、ずっと」




凪くんが自嘲気味にふっと笑う。



「困らせるってわかってたから我慢しようと思ってたけど……やっぱ無理。今度こそ、りりのこと傷つけないようにするから、大切にするから……だから、俺のこと、考えて」




ぶわっと熱いものが目にこみ上げてくる。
傷つけたのは、私の方、なのに。


何も言えない私に、凪くんは。




「ごめん、急に。りりの気持ちが定まったら、聞かせて」



待ってるから、と熱っぽい眼差しのまま優しく笑った。