「“誕生日は?” だってさ。俺は10月26日で、上村は3月18日だな」

「……っ」



パンッ、とまたひとつ風船が割れる。



「今度は好きな食べ物か。俺はエビが好き。で、上村はケチャップがたっぷりかかったオムライス」




風船を割って現れる質問すべてに、凪くんが私の分まで先回りして答えていく。


家族構成に、好きな動物、小学生の頃の将来の夢まで、まるで知っているのがあたりまえとでも言わんばかりに、正確に。



待って。

待ってよ、凪くん。



また次の風船を割ろうとした凪くんのシャツの袖を思わず握って止める。




「な、なんで?」



聞かずにはいられなかった。



「どうして、全部、わかるの」




動揺する私の頭の上に、凪くんの手のひらがそっと乗った。


ぎこちない動作でするりと1度だけ撫でられて、胸の奥がとくんと音を立てた。




「忘れるわけないだろ」

「……え」

「全部、覚えてる。りりのことなら、全部」

「!」



ドキン、と心臓が一際大きく跳ねた。

それは、『全部、覚えてる』という凪くんの発言に。

そして、それから。



「今、名前……っ」



りり、って呼んだ。



「パートナーなんだから、名前で呼ぶ方が自然じゃない?」




それは、そうかもしれないけれど。

凪くんしか使わないその呼び方で呼ばれると、どうしても甘い記憶がよみがえってくる。



『俺だけの呼び方、特別感あるから』



もうあのときとは、関係も状況も、全然違うのに。



「だから、りりも俺のこと名前で呼んで」



だめだよ。


そんな恋人みたいなことしたら、止まらなくなる。



凪くんが好きだって気持ちが溢れ出して、止まらなくなるんだよ。

そんなの困るのに、凪くんに逆らえるわけがなかった。




「……な、凪くん……」




久しぶりに呼んだその名前に、凪くんがふっと表情を和らげたような気がした。