「ハグとか……、嫌なんじゃねえの」
凪くんの瞳が不安げに揺れる。
「嫌じゃ、ないよ」
それは本音だった。
嫌なわけない、相手が凪くんなんだから。
「は、恥ずかしいけど……っ」
ドキドキとはやる心臓にどうにか静まれと念じながら、ハートの風船をひとつ捕まえて、そのまま勢いよくぎゅっと凪くんの背中にしがみついた。
パンッと風船の割れる音がするけれど、それが耳に入ってこないほど、鼓動の音がうるさい。
これ、思っていた100倍は恥ずかしい……!
かああ、と真っ赤に染まった顔を凪くんから隠すように、床にひらりと落ちた質問カードを拾い上げる。
「ええと、“得意な科目は?” だって……」
凪くんは、きっと。
「俺は数学だな」
だよね、と心の中で呟いた。
変わってないなぁ。
逆に私は数学が大の苦手で、いつも凪くんに教えてもらっていたんだよね。
「私は────」
「社会。特に日本史だろ」
「えっ」
答えようとした矢先、凪くんに奪われた。
しかも、合っている。
私の得意教科は社会で、中でも世界史よりは日本史の方が頭にすんなり入ってくるの。
「次の質問、いくよ」
ぼけっとする私の体を引き寄せて、凪くんがふたつ目の風船を割った。



