「待って、俺、何かした?」

「……ううん」

「りりは、俺のこと、もう好きじゃなくなった?」




ううん、と心のなかだけで首を横にふる。




「好きじゃ、なくなった」




嘘だよ、大好きだよ。


凪くんのことを考えるとき、いいところしか思いつかない。それくらい素敵なひとだから……私じゃ、だめなんだ。




「……っ、凪くんと一緒にいると、苦しいの」




こらえきれなくなって、ぽろっと目尻から涙がこぼれ落ちる。

凪くんは慌てたようにそれを拭ってくれようとしたけれど、私はそれを遮った。




「凪くんの隣にいると、私、どんどん自分のことを嫌いになる……っ」

「ごめん。気づかなくて……ごめん」




凪くんのせいじゃない。




「傷つけて、ごめん」




頭を下げた凪くんの前髪のすきまから見えた表情は、ひどく苦しげだった。

傷つけたのは、私の方だ。



私に自信がなくて、私が弱かったせいで、最低な嘘をついて凪くんのことを傷つけた。

こんな私のこと、誰も好きになんかならない。



凪くんだって、きっと、もう。





逃げるように凪くんに背を向けて以来、卒業まで一度も話さなかった。3年生ではクラスが離れていたから、会うこともなかった。




当然、凪くんが私の進路を知るはずもなかったし、私だって凪くんが七海学園高校を受けていたことなんて知らなかった。



まさか、運命のパートナーとして再会することになるなんて、夢にも思わなかったんだ。