「あの藤吉くんの彼女っていうから、どんなすごい子なのかと思ったけど、意外とフツーの子だよね」
「ああ、上村さん? わかる、パッとしないっていうか……」
「悪い子ではないんだろうけど。あの藤吉くんと並んで釣り合うかといえばそうじゃないよね、正直」
「おこがましいとか思わないのかな」
「大人しい顔して意外とずうずうしいんじゃない?」
値踏みするような視線に、聞こうとしなくても自然と耳に入ってきてしまうささやき声たち。
自分でも無意識に目をそらしていた事実に、じわじわと直面する。鈍感なふりができるほど、私は器用じゃなかった。
ほんとうは最初からわかっていたことだった。
容姿端麗、成績優秀、運動神経ばつぐん。
凪くんは、なんでもソツなくこなすハイスペックボーイ。
男女問わず、先生までも、誰もが認める完ぺきな男の子。
それに比べて私は、あまりにも、平凡だった。
聞こえるか聞こえないかぎりぎりのひそひそ声が指摘するのは、すべて事実だったの。
特別かわいいわけでも、頭がいいわけでも、なにか秀でた特技があるわけでもない。
すべてが平均値におさまってしまう私は、凪くんに適うことなんてただのひとつも持っていなかった。
根も葉もないデマだったなら、毅然と否定できたかもしれないけれど、すべて事実だったからこそ、投げかけられる言葉は鋭く心に突き刺さってきて、気づけばトゲは抜けなくなっていた。
「また学年1位だって、藤吉くん。ぶれないねー」
「あ! 藤吉くんがシュート決めた! さすが!」
「この前、駅前でスカウトされたらしいよ。断ったみたいだけどもったいないよねー、モデルとか興味ないのかなー」
彼女として喜ぶべきことなのに、大好きなはずの凪くんが褒められる度、心が痛くて仕方なかった。
もともとなかった自信が、さらになくなって。
「りり、一緒に帰ろ」
「……っ」
凪くんの横に並ぶと、あまりの不釣り合いさに情けなくて泣きたくなった。
ふさわしくないよ、とすれ違うすべての人に責められているような気がした。
「りり。何かあっただろ」
「なにも、ないよ……」
「俺に言えないこと?」
ついには、凪くんに気を遣わせてしまって。
……凪くんは、こんなだめだめでなにも良いところのない私なんかの、どこが好きなんだろう。どうして一緒にいてくれるんだろう。
仕方なく付き合ってくれているんじゃ────なんて、凪くんの気持ちを踏みにじるようなことを考えてしまう私のことが、大嫌い。
どんどん、自分のことが嫌いになる。
与えられてばかりで、凪くんに何も返せない。
離れがたくてずるずると引き伸ばしていたけれど、ついに決心がついたのは、付き合ってまる1年が経った中学3年生の秋のこと。
「……凪くん、別れよう」
高校受験が近づいてきて、そろそろ志望校を固める時期。
凪くんを解放するなら、今しかないと思った。
私というお荷物を手放して、凪くんには自由に進路を選んでほしかったから。
ふたりきりの帰り道、とつぜん別れを切り出した私に凪くんはぴしりと石のように固まって、それからうろたえた。
あんなにわかりやすく焦っている凪くんを見たのははじめてだった。



