不毛な恋に落ちてしまった。
叶わないままでもいい、と本気でそう思っているうちに1年が過ぎて、また秋が訪れて、それは突然の告白だった。
「上村のことが、好きなんだ」
嬉しい、よりもなによりも、驚きの方が大きかった。
何かの間違いなんじゃないか、冗談なんじゃないかと何度も何度も疑うけれど、凪くんの頬が紅葉に負けないくらい真っ赤に染まっていたから、信じるしかなくなったの。
はくはくと口を開け閉めするけれど、あまりの衝撃で声も出なくなってしまったわたしに、凪くんはくすっと笑って言葉を重ねた。
「俺の彼女になってくれませんか」
もう、頭は真っ白。
────凪くんは、こんな私のどこを好きになってくれたの?
ふとかすめた疑問を、ぶつける余裕はなかった。
訳もわからないまま、衝動のままにこくんと頷いて、そうしてぽや〜っと夢見心地のまま凪くんと私のお付き合いがはじまった。
それが中学2年生の秋のこと。
まだ、私が “凪くんの彼女になる” ということが、どういうことかわかっていなかった頃のこと。
「りりかじゃなくて、“りり” って呼びたい。だめ?」
「だめじゃないけど、どうして?」
「俺だけの呼び方、特別感あるから」
「藤吉くんはすぐ “特別” にこだわるけど────」
「藤吉じゃなくて、凪って呼んでよ。りり」
“上村” が “りり” に変わって、“藤吉くん” が “凪くん” に変わる。
たったそれだけのことで、心がいっぱいに満たされて────きっと、これが運命の恋ってやつなんだって信じてやまなかったの。
凪くんが、私の運命の人なんだって。
だけど、凪くんの彼女、という甘い特別にひたっていられたのは、ほんの一瞬だけだった。
呼び方が変わって、私が凪くんの彼女だということが周りに知れ渡りはじめると、すぐに思い知らされることになった。
凪くんの彼女、の肩書きの重さを。



