話すことも関わることもきっとない。
そう決めつけていたはずの凪くんへの恋にあっさり落ちたのは、クラスのみんなで作り上げた『シンデレラ』の劇の本番でのこと。
0時の鐘が鳴って、慌ててシンデレラは階段を駆け下りる、王子様に魔法がとけた姿を見られてしまわないように。
大切なシーンだから何度も練習して、セリフは完ぺきだった。
「いいえ、ダメなんです、行かなくては。さようなら───っ、ひゃ……っ!」
いたずらをしたのは、履きなれないガラスのパンプス。
大階段のセットを駆け下りる途中、つんのめってふわっと体が宙に浮く。
あ、落ちる。
勢いついたまま、舞台から転がり落ちそうになった私を、とっさに抱えて受けとめてくれたのが、木の役で舞台の端に立っていた凪くんだったの。
「……っ、大丈夫? 怪我は?」
じっと立っているだけの役だったのに、舞台の真ん中まで走ってきて、お姫様抱っこで受けとめてくれた。
心配そうに顔をのぞきこまれると、ドキドキが止まらなくなった。
まぬけなハリボテの木の格好なのに、王子様なんかより、ずっとずっとキラキラして見えて。
アクシデントはクラスのみんながアドリブでカバーしてくれて、劇は無事にエンディングを迎えて、拍手喝采を浴びながらもドキドキはおさまらない。
念のために、と劇が終わったあとで凪くんが私を保健室に連れていってくれたけれど、私は無傷で、実は凪くんの方が私をキャッチした反動で手首を捻挫していたことが判明した。
「ごめんね、私のせいで」
「いや、間に合ってよかった。上村が怪我してなくて安心した」
痛いはずなのに、平気な顔して、目尻を下げる。
その笑顔に、あっけなく落ちてしまった。
胸がキュンと疼いて、それは増していくばかり。
凪くんのことを、好きになってしまったんだって、身の程知らずの恋心をいやでも自覚させられた。
それが中学1年生の秋のこと。



