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この扉を開けば、運命の人が待っている。
期待半分、不安半分。
────それでもこの七海学園高校を選んだのは、諦めたかったから。
いつまで経っても忘れられない、後悔ばかり傷だらけの恋を、今度こそ。
あれは “運命の恋なんかじゃなかった” って証明して、今度こそ失敗しないように1からやり直したい。
「……っ、き、今日からどうか、よろしくお願いします……っ」
深々と頭を下げて、ドアノブに手をかける。
運命の扉をぐいと開いて、緊張を押し殺しながらそっと顔を持ち上げて────目が合ったその人の姿に、私は文字通り固まった。
「上村」
「……っ、な、なんで凪く────藤吉くんがここに、いるの……」
「なんでって……俺、今日からここの生徒」
聞いてない。
今日からはじまる寮生活のために腕いっぱいに抱えてきた段ボール箱が、ゴトンッとすべり落ちた。
転がり落ちた荷物は、ころころと凪くんの足もとへ向かっていく。
「ご、ごめん……っ」
慌ててかがんで、拾い集めて。
ばれないように、ちらりと見上げて、息がつまる。
────運命のパートナーが 〈元恋人〉 なんて、そんなの聞いてない。
「……もう二度と、会わないと思ってた」
私を見下ろした凪くんが、そうぽつりと呟いたのがかすかに聞こえた。