*** 「 カレと」 ***


「あ。……雪だ」
ひらひらと綿毛のように舞う雪を手のひらで受けとめた彼。
「午後から降るって、お天気おねえさんが言ってたよ」
持っていた傘をひろげた私を不思議そうに見つめてくる。
私たちが住む町に雪が降るのはめずらしい。

「傘、さすの?」
「……え?」
「雪のとき、傘ってさすもんなの?」
「……さす、よ。私は、」

だって。
雨、だよ。
雪って。
雨が氷になって降ってくるんだよね?

「まちがってる、かな?」
「あ……。いや、」

次から次へと彼の髪にとまる雪。
このままでは風邪をひいてしまう。
傘の中に彼を招き入れ、彼の髪についた雪を指ではらった。

「まちがってないと思う」

傘の柄を握る私の手に自分の手を重ねた彼。
優しく力が加わると、傘は車道と私たちを遮るようにゆっくりと傾いていく。

「こういうとき、便利だし」

そう言って目を細めた彼の息が、私の唇を優しく撫でていった。




《完》