*** 「 初カレと」 ***


「ごめん」
「どうして謝るの?」
イルミネーションを眺めていた私は首を傾げた。
「……結局、なにも用意できなかったから」
私を見下ろす彼の口元がマフラーで覆われてしまった。

不器用って言葉が似合う。
そんな彼を好きになった私は、落ち込む姿にも胸をときめかせていた。

人混みが苦手な彼が地元の人気スポットに連れてきてくれた。
それでじゅうぶん。
プレゼントなんていらない。

「一緒にいてくれるだけで嬉しいよ?」

端正な顔立ちの彼の鼻が、ひんやりと澄んだ空気のせいで赤色に染まっていた。
かわいい、って。思わず口にしてしまいそうになる。

「………、」

「え?なぁに?」
口元のマフラーに捕まった言葉を解放してあげようと手を伸ばした。
彼のマフラーをそっとずらせば、現れたかたちのいい唇がゆっくりと動く。

「おまえのそういうとこ、……好き、だ」




《完》