*** 「 先生と」 ***


「ゴールでさ、こうやって待っててくれたら、頑張って走るよ」
保健室のベッドに腰掛け、両手をこれでもかというくらいに広げてみせると、氷嚢を手にした先生が眉をひそめた。
「捻挫したんじゃないの?」

「ん?してないよ。だって、こうでもしなきゃ、ふたりっきりになれないでしょ?」
えへへ、と笑ってみせたけど。
不思議なことに先生は、喜ぶどころかムッとしてる。
「だったら早く戻りなさい」
「えーっ。もう少し一緒に」
「ダメです」
先生は、頭を冷やせと言わんばかりに氷嚢を私の頭の上に置いた。

「……けち」
こんなにも好きなのに。一緒にいたいのに。
先生は、少しもわかってくれない。

「いいもん。もう、戻るから」
と見せかけて、先生の背中に思いっきり抱きついた。

「なっ…。おい、こら。アヤ!」

驚いた先生が、思わず私の名前を口にした。

『先生』から『彼氏』に切り替わった瞬間。

好きが溢れた。




《完》