「あっ、あのっ、その…」

 舞は言い訳をしようとしたが、まったく思い浮かばなかった。

 中葉には完全にバレてしまった。

「あの、本人には言わないでくれる?」

 他人の口から伝わる告白ほど滑稽なものはない。それだけはどうしても阻止したい。

 告白する時は絶対に私の口からで、その後はテツヤ君に抱きしめてもらうのよ!


 テツヤ君、実は私、前からあなたのことが…

 言わなくてもわかっていたよ、今井さん。いや…舞。

 あっ、テ、テツヤ君。

 私の目から涙が流れ落ちる。

 だけどテツヤ君に泣き顔なんて見せられない。私はテツヤ君の目を避けるようにテツヤ君から顔を背けた。

 私の背に近づく大きな影。

 影は私の身体を包み込むと、私の涙を指で拭い取った。

 あっ、テツヤ君。

 思わず振り向くと、そこにはテツヤ君の凛々しい顔。それが段々と私の方へと近づいてきて…


「キャー、なんちゃってー!」

 幸せなのにも程がある。

 中葉は圧倒されていた。

 それもそのはずだ。舞の考えていたことはすべて口に出ていたのだから。響歌達がここにいれば完全に呆れられて絶縁されていたかもしれない。

 だが、幸いにもここにいるのは中葉だった。

 中葉は呆れるどころか感心していた。

「本当にムッチーは面白いなぁ。以前、響ちゃんがムッチーのことをスルメのようだと言っていたことがあったけど、オレにもようやくそれが納得できたよ」

 スルメ?

「スルメって…いったいどういうこと?」

 スルメという単語に現実に戻された舞は、不審げに中葉に訊ねた。

「言った通りの意味かな。ほら、スルメって姿は素朴だけど、噛めば噛むほど味が出てきて美味しいだろ。それと同じでムッチーも、外見は地味そのものだけど、つき合えばつき合うほど内面の面白い性格が滲み出てきて美味しい存在だって、響ちゃんが言っていたんだ。その時は疑っていたんだけど、本当にそうだったんだね。響ちゃんは他にもムッチーのことを学校一楽しい性格をしていると言っていたけど、それも今となっては素直に頷けるよ」

 き、響ちゃんってば、中葉君になんていうことを言っていたのよ!

「まぁ、まぁ、ムッチー、落ち着いて。響ちゃんはムッチーを褒めていたんだから。それとそんなに恥ずかしそうにせずに、むしろ堂々と胸を張っていればいいんだよ」

 中葉は響歌を庇ったが、舞にはどうしても響歌がいい意味でそのことを言ったとは思えなかった。

 しかしそんな舞の思いも、中葉の次なる言葉で吹き飛んだ。